独白 愉快な“病人”たち

TV番組きっかけに発見 麻倉未稀さん「乳がん」闘病を語る

医療系番組の検査で乳がんが発覚した
医療系番組の検査で乳がんが発覚した(C)日刊ゲンダイ

「ひと泣きしてもいいですか?」

 そう夫に断りを入れてから、自宅で声を上げて泣きました。まだがんのタイプがわからず、治療の道筋が不明瞭で前にも後ろにもいけず、一番モヤモヤしていた時でした。自分で「負のループに陥っている」と気づいたので、その時点で「(胸を)切らなきゃいけない」と思ったことが涙につながったのだと思います。

 それまで夫の前で泣いたことなどありませんでしたから、彼はオロオロしていました。でも、ほんの数分、大泣きしたら思いのほかスッキリして、そこからはもう前向きになりました(笑い)。「乳がん」で左乳房の全摘出手術を受けたのは今年の6月です。きっかけは、医療系のテレビ番組で人間ドックを受けたこと。ちょうど今年は少し仕事を減らして健康管理をしっかりやりたいと思っていた時期だったんです。でも、自分で病院に行くきっかけが掴めなかったので、番組のオファーを「いいチャンス」と捉えました。

 5月の放送に向けて4月下旬、番組指定のクリニックで人間ドックを受けました。すると、左乳房のCT画像に影があったのです。すぐにマンモグラフィーとエコーを撮り、東大病院を紹介されました。

 その時は、いろんな検査をして鎮静剤なども打っていたので、「胸に影がある」という話もぼんやり聞いていた感じです。「何かあるんだ。でも大丈夫」と何の根拠もなく思っていました。

 数日後、病院は来週でいいかなと考えていたら、クリニックの方から「今日すぐに来られますか?」と連絡があったんです。そこで初めて「これはただ事じゃない」と焦りを感じました。

 そこから事態はあれよあれよと進んでいきました。途中からは“この流れを止めちゃだめだな”と思いながら決断していた気がします。

■「番組が絡んでわかったことには意味がある」と出演を決意

 東大病院での検査の結果は「悪性」でした。直径2センチ大のがんが2つ、ひょうたん形につながっていて、乳頭の裏にも、もう1つありました。幸いにもリンパ節には達していませんでしたが、「全摘出手術でないと難しい」と告げられました。

 差し迫った問題は「番組出演をどうするか」でした。病気を公表するかどうかは私の判断に任されました。公表しないということは、つまり番組を降板すること。事務所はそれを覚悟していたようです。でも、私は逆に「番組が絡んで病気がわかったことには何か意味があるはず」と考えて出演を決意しました。5月17日に公表して22日が放送日。手術は6月という段取りになったのです。

 手術は、その後の通院も考えて自宅に近いところがベストだと東大病院の方からアドバイスがあり、湘南記念病院で行いました。なかなか予約が取れない病院なのですが、連絡した時にたまたま「1週間後に1日だけ空いている」と言われ、運命めいたものを感じました。

 受診の結果、東大病院とまったく同じ診断だったので、迷うことなく手術に臨めました。仕事の合間を縫って、乳がん患者用のブラジャーなども探しにいったりして、入院前は結構バタバタでした。手術後にもすぐにライブが決まっていたので、先生に「すぐに歌えるようにしてほしい」とむちゃなお願いをしました(笑い)。

 手術は左乳房の全摘出と同時再建手術です。今は左胸にエキスパンダーが入っていて、皮膚をのばしている最中。来年にはシリコーンが入る予定です。同時再建手術ができたのは、がんがリンパ節に及んでおらず、術後に抗がん剤ではなくホルモン剤で大丈夫とお墨付きがあったおかげです。今は、毎日1錠のホルモン剤と2週間に1度の検診だけ。ホルモン剤は10年間は飲み続けた方がいいと言われています。

 走ったり、自転車やゴルフなどの運動は3カ月間は止められていますが、歌は退院して1週間後ぐらいにはもう始めていました。でも、息を思い切り吸うと痛いんです。だから、空気はお腹と背中に入れて歌うようになりました。力むと痛みがきそうなので、自然と力まない歌い方ができて、面白いことに前より声が出ちゃうんです。声が出過ぎて胸に響いて痛いんですけど、まだ調節がうまくできなくて(笑い)。それまでも力まず歌ってきたつもりだったんですけど、本当の意味でわかったのは病気をしたおかげです。

 番組を通して病気を発見できたことは、多くの人へのメッセージにもなりました。本当によかったと思っています。

▽あさくら・みき 1960年、大阪府生まれ。81年に歌手デビューし、80年代にテレビドラマの主題歌となった「What a feeling~フラッシュダンス」や「ヒーロー」が次々とヒットする。最近ではテレビ東京系「THEカラオケバトル」での優勝や旅番組のリポーター、ミュージカル「アニー」など幅広く活躍中。昨年デビュー35周年を迎え、CD「Voice of Power-35th Anniversary Album」をリリースした。

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