寝ると左右に流れる人は要注意 “カエル腹”に潜む重大病

単なる食べ過ぎではない場合も
単なる食べ過ぎではない場合も(C)日刊ゲンダイ

「最近、急にズボンがきつくなってパンツのゴムの痕が出るんだよね。食べ過ぎなのかな」

 せり出したお腹をさすりながらため息をついているあなたは、もう少し事態を深刻に考えた方がいいかもしれない。その“カエル腹”には命に関わる重大病が潜んでいる可能性がある。

■がん、肝硬変、心臓病の疑い

 営業マンの田中敏明さん(仮名、52歳)がお腹の張りに気がついたのは半月前のこと。ズボンがきつくなり、お腹にパンツのゴム痕がくっきりとつくようになった。「単なる食べ過ぎ」と軽く考えていたが、運動や食事制限しても治らない。寝苦しく、起床後腰の左右にだるさを感じ、手足も冷たい。病院に行ったところ、「肝硬変で腹水がたまっている。心不全の疑いもある」と言われた。東海大学医学部客員准教授で「かなまち慈優クリニック」(葛飾区金町)の高山哲朗院長が言う。

「お腹が急激に膨れてくるのは、ストレスや手術の後遺症、老化などで大腸の働きが悪くなり、ガスがたまるケースが多い。ただ、肥満や便秘などでお腹が張り出しただけなら、体を横たえてもお腹の形に変化はありません。横になるとお腹のたるみが両脇に流れ、脇腹を押すとたるみが移動するなら、腹水を疑った方がいいかもしれません。特に短期間に急に体重が増えた人は、要注意です」

 腹水とは、腹腔へ過剰に水がたまる症状を言う。内臓は腹膜という袋に包まれており、腹腔とは内臓と腹膜の間のすき間を指す。そこには常時20~50ミリリットルの水がたまっているが、病気になるとそれが過剰になる。

 よく言われるのはがんだ。進行すると、お腹にがん細胞が散らばるように広がり、がん性腹膜炎を起こすことがある。

「消化器系や婦人科系の末期がんに多く見られる症状です。がん性腹膜炎になると、お腹の臓器と臓器の間に腹水がたまります」(高山院長)

 お腹がぽっこり出て息苦しくなり、胃が圧迫されて食欲が落ちることもある。

「しかし、腹水がたまるのはがんに限りません。むしろ、田中さんのような肝硬変のケースも多いのです」

 肝硬変とはお酒の飲み過ぎやウイルス感染などにより、肝臓に慢性肝炎が起こり、肝臓の組織が硬くなって肝機能が失われる病気。肝硬変になると肝臓でつくられ、血液中の物質移動や体液濃度の調整をするアルブミンが減少。血管から水分が流れ出て腹水がたまりやすくなる。

「肝硬変を放っておくと、本来なら肝臓で無毒化されるアンモニアなども血管を通して脳に運ばれ、肝性昏睡という意識障害を引き起こします。また胃や食道の血液は門脈という場所に集められ、肝臓を通じて心臓に戻っていきます。肝硬変で血液が肝臓にスムーズに流れなくなると、門脈圧が高くなり、胃や食道の静脈に血液が逆流。胃や食道に静脈瘤ができます。それが破裂すると吐血や下血します」

 ちなみに、肝硬変のリスクとなる脂肪肝は、お酒のアルコールの分解能力の低い人、つまりお酒を飲むと顔が赤くなる人はできやすい。熊本大学の研究によると、たとえお酒を飲まなくても、食生活の乱れや運動不足などにより脂肪肝ができやすく、肝機能検査値がそれほど高くなくてもできやすいという。

「心筋梗塞や心臓弁膜症、高血圧などの患者さんに見られる慢性心不全も腹水がたまりやすい。右心室の機能が衰える右心不全では、静脈がうっ血し、全身に血がたまります。血液の巡りが悪くなるため栄養が行き届かず、疲れや脱力感があり、手足が冷たくなります」

■性感染症の可能性も

 ほかに腹水がたまる病気としては腎不全、膵炎などがあるが、女性で注意したいのがクラミジアと呼ばれる性感染症だ。

「感染しても80%近い女性は自覚症状がないといわれ、感染者の最大40%は骨盤内腹膜炎をはじめとした骨盤内感染症を患い、それが不妊症の原因になるといわれています。骨盤内腹膜炎を起こすと大量とは限りませんが腹水がたまります」

 心当たりのある人は一度医師に相談した方がいいかもしれない。

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