天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「卵円孔開存」は術後の感染症心内膜炎リスクを高める

順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

■かつては“無視”されていた

 右心房と左心房の間に小さな穴があると、ちょっとした拍子で血液が行き来することになります。つまり、全身から右心房に流れ込んだ静脈血と、肺で酸素を取り込んで左心房に入った動脈血が少量でも混ざってしまうということです。静脈血は全身を巡ってから戻ってくる血液なので、体内に侵入した細菌が入り込んでいる場合があります。その細菌が卵円孔を通して左心房に入り込み、弁に取り付いてしまうリスクがアップしてしまうのです。

 そのため、大動脈二尖弁による弁置換の治療を行う際は、細心の注意を払って卵円孔が開いていないかどうかを確認しています。卵円孔開存の患者さんは、弁の交換と同時に穴を閉じる処置を行っています。かつては、卵円孔が術後に問題を引き起こすことが分かっていなかったため、穴があってもまったく気にすることなく、そのまま手術が行われていました。しかし近年は、穴をふさぐことで血液の行き来をなくし、細菌が弁に巣くって感染性心内膜炎を引き起こす可能性を根絶やしにしておくのです。足の静脈にできた血栓が卵円孔から左側の心臓に入って起こす脳梗塞の防止にもなります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。