決算書でわかる有名病院のフトコロ事情

私立医科大学の全収入に占める学生納付金の比率は数%

附属病院こそ収益の柱(左は東京慈恵会医科大学の大学1号館)
附属病院こそ収益の柱(左は東京慈恵会医科大学の大学1号館)/(C)日刊ゲンダイ

 関東の私立医科大学(7校)の全収入、学生納付金(授業料)収入、および医療収入の金額を<表>にまとめました。医療収入とは、付属病院が診療で得た収入のことです。

 埼玉医大や慈恵医大は全収入が1000億円を超えています。もっとも少ない聖マリアンナ医大でも630億円に達しています。医科大学の経営規模は、大企業並みということです。また医療収入では慈恵医大がトップで900億円超、最少の聖マリアンナ医大は533億円でした。聖マリアンナ医大は付属病院の総病床数が少ないため、医療収入がかなり少なめです。ただこの数字には、同大学が指定管理者になっている川崎市立多摩病院の分は含まれていません。同病院は約92億円の医療収入を得ていますが、決算書には反映されていません。学校法人の収益事業として、別途カウントされています。これを加えると聖マリアンナ医大の全収入は約723億円、医療収入は約625億円となります。

 埼玉医大を除けば医学部と看護学部(ないし看護専門学校)だけなので、学生数はたかだか千数百人に過ぎません。埼玉医大は臨床検査・医用生体工・理学療法の各学科を持っているため、約2500人の学生を抱えています。

■付属病院こそ収益の柱

 各大学とも、全収入に占める学生納付金の比率は、かなり低くなっています。慈恵医大はたった3%ですし、埼玉医大でも7%にとどまっています。医科大学にとって学生納付金は微々たるもの。付属病院こそ収益の柱であって、極論すれば学生納付金を取らなくても困らないのです。

 実際、私立の医学部の学費は、最近かなり値下がりしてきています。10年ほど前までは6年間で4000万~5000万円台が普通で、6000万円を超える大学もありました。ところが2008年に順天堂大学が値下げを行って以来、相場は2000万~3000万円台に下がってきています。しかも学費免除枠も拡大しているのです。

 私立の医科大学にとって、優秀な学生を獲得することは、付属病院の未来のスタッフを確保するのとほとんど同じ意味を持っているのです。人材さえ確保できれば、医療で稼ぎ続けることができます。長い目で見ればそちらのほうが儲かりますから、学費値下げはいわば先行投資のようなものなのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。