余命4カ月と言われた私が今も生きているワケ

ミニ・ゴジラを冷凍させる瞑想をやっている

高橋三千綱氏
高橋三千綱氏(C)日刊ゲンダイ

 胃がんを通告されたのは、2013年4月の65歳の時だ。医者に言われるまま、食道がんの手術をした半年ほど後のことだった。

 その時、私は妻とグアム島に行っていた。妻の携帯電話に病院から「至急、日本に戻ってきてください」と連絡が来た。「どうも、胃がんができているみたいなんです」という説明だった。

 私は「手術はしない」と答えた。こちらの都合も考えず、がんなら手術するのが当然と言わんばかりの相手に、すぐに戻ってこいとは何だと腹が立った。妻は「いいの?」と心配したが、「グアム島で下痢しているんだ。蛇に怯えながらクソをする男の悲しさが分かるのか!」と続けた。

 妻は病院で「手術しないと半年後には大変なことになる」とずいぶん脅かされたらしい。真っ青な顔をした妻の姿を今も覚えている。

 しかし、医者が言う半年どころか、4年半近くが過ぎた今も私は生きている。

 要するに、がんを冷凍しているのだ。朝起きると、私は瞑想するのが日課になっている。巨大なゴジラ(がん)が太陽を覆い尽くすかのように浮き上がってくる。そいつが、放射能を吐きながら私の胃の中に入ってくる。その瞬間、胃の中にいるミニ・ゴジラを冷凍するイメージだ。

 昨年の夏、「シン・ゴジラ」が公開された。偶然なのだが、あの映画でもゴジラを冷凍して暴れさせなくしていた。だから僕のしてきたことは正しいのだ。

 もちろん、胃がん治療はすべて断っているが、断酒は続けていた。一度は肝硬変になっているので、さすがに酒はまずいと思っている。それで4年半やめていたのだ。

 ところが、昨年の夏ごろ、夜中に血糖値が300か400に一気に上がるようになった。酒を一滴も飲んでいないのにこれはおかしい。

 そんな時に娘夫婦と孫が暮らすアメリカに行ったのだが、やはり調子が悪かった。

 体全体の血流が悪く、足が痙攣してしまった。それもただの痙攣ではない。ふくらはぎから足全体にかけてコンクリートのように固まってしまったのだ。当然、歩けるような状態ではなかった。

 その瞬間、あることに気付いた。あれほど酒好きだった自分が信念を曲げてまで禁酒している。自分を裏切って生きているのに、体は言うことを聞かない。ということは、病気の原因は自分を裏切って生きていることのストレスなんじゃないのか、と。

 そこで、試しに缶の焼酎サワーを買ってきた。炭酸の中にキャップ1杯分だけ薄めて飲んでみた。すると案の定だった……。

高橋三千綱

高橋三千綱

1948年1月5日、大阪府豊中市生まれ。サンフランシスコ州立大学英語学科、早稲田大学英文科中退。元東京スポーツ記者。74年、「退屈しのぎ」で群像新人文学賞、78年、「九月の空」で芥川賞受賞。近著に「さすらいの皇帝ペンギン」「ありがとう肝硬変、よろしく糖尿病」「がんを忘れたら、『余命』が延びました!」がある。