Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

画期的治療が臨床研究へ 最初から薬物療法で乳がんが消えるタイプ

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 手術では、ある程度の正常組織とともに腫瘍を切除。切除する範囲の一番外側が「断端」で、そこにがん細胞がないことが陰性です。切除断端の陰性化とは、残っている組織にがんが見られないことを意味します。

 国立がん研究センター東病院のチームが着目したのは、がん細胞に見られる「HER2」というタンパク質が陽性で、なおかつホルモンが陰性のタイプ。乳がん全体で10~15%を占めます。

 チームは、そのタイプの人に、HER2陽性に効果的な分子標的薬と抗がん剤を投与。半数の患者は、がんが完全に陰性化していました。さらに、がんが消滅した原因を解析した結果、「HSD17B4」という遺伝子が関与していることを特定。その遺伝子が活性化していないと、がんが消滅する可能性が高いことを解明したのです。この研究で、HER2陽性でホルモン受容体陰性、かつHSD17B4非活性のタイプの乳がんでは、手術を回避できる可能性が高いと分かったわけです。

2 / 3 ページ

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。