空気は一瞬にして凍りつきました。Dさんもご家族も悪性リンパ腫どころではなく、「エイズ」という病名に仰天したのです。Dさんは仕事でよくアジア諸国に出張していました。ご家族はエイズが自分たちに感染していないか、まずそのことが心配になり、A担当医にすぐに検査して欲しいと申し出ました。A担当医は「まず、その心配はないと思う」と答えながら、その場の空気を察して緊急で採血検査を行ってくれたそうです。30分ほどで結果が出て、全員が陰性だとわかりホッとしたといいます。
しかし、娘さんは「お父さんは不潔!」と叫び、1カ月後に自分の結婚式を控えていた息子さんは、「出席しないでくれ。婚約者にはエイズのことは絶対に言わないでくれ!」と話しました。奥さんは黙ったままうつむいていたそうです。
Dさんはがんの診断は覚悟していました。しかし、エイズの疑いがあるという告知によって、自分を見る家族の目が「蔑む」ようになったことに対し、何とも答えようがなかったといいます。
がんと向き合い生きていく