がんと向き合い生きていく

がんに加え「エイズの疑い」も告知され空気が凍りついた

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 空気は一瞬にして凍りつきました。Dさんもご家族も悪性リンパ腫どころではなく、「エイズ」という病名に仰天したのです。Dさんは仕事でよくアジア諸国に出張していました。ご家族はエイズが自分たちに感染していないか、まずそのことが心配になり、A担当医にすぐに検査して欲しいと申し出ました。A担当医は「まず、その心配はないと思う」と答えながら、その場の空気を察して緊急で採血検査を行ってくれたそうです。30分ほどで結果が出て、全員が陰性だとわかりホッとしたといいます。

 しかし、娘さんは「お父さんは不潔!」と叫び、1カ月後に自分の結婚式を控えていた息子さんは、「出席しないでくれ。婚約者にはエイズのことは絶対に言わないでくれ!」と話しました。奥さんは黙ったままうつむいていたそうです。

 Dさんはがんの診断は覚悟していました。しかし、エイズの疑いがあるという告知によって、自分を見る家族の目が「蔑む」ようになったことに対し、何とも答えようがなかったといいます。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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