国内初の発売 注目の「配合剤」で糖尿病治療はどう変わる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 今月7日、糖尿病の新たな薬が発売された。東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授の門脇孝医師にその意義を聞いた。

■相乗効果がポイント

 2012年の統計で、予備群も含めると国内の2型糖尿病患者は2050万人。門脇医師によれば、アジア人はインスリン分泌が低下しやすい遺伝因子があるが、それだけでは糖尿病がここまで顕在化しなかった。

「ところが食生活の欧米化による肥満・内臓脂肪蓄積でインスリン抵抗性が加わり、相互作用で2型糖尿病患者が急増したのです。つまり、2型糖尿病の治療を考える上で、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性への2つの対応が重要です」

 今回発売される薬は、インスリン分泌低下に対応するDPP―4阻害薬と、肥満によるインスリン抵抗性に対応するSGLT2阻害薬の配合剤だ。これは、国内初になる。

 DPP―4阻害薬は2010年の登場以来、急激に処方箋シェアを伸ばしており、これによってHbA1cの平均値が低くなったとのデータがある。2014年発売のSGLT2阻害薬も順調にシェアを伸ばしている。 それぞれの特徴から、次に説明する相乗効果が期待できる。

 DPP―4阻害薬は7種類の薬が出ている。今回配合剤になるDPP―4阻害薬は、臨床研究の結果でHbA1cの数値を安定して保つことが分かっている。

「高血糖をもたらす要因は8つあり、DPP―4阻害薬はそのうち4つに作用する。つまり、インクレチン作用の減弱、インスリン分泌の低下、グルカゴン分泌の低下、肝糖新生の増加です」

 インクレチンはインスリン分泌を促すホルモン、グルカゴンは血糖上昇作用のあるホルモン、肝糖新生は肝臓で行われる最低限の血糖値を維持する体の機能だ。

 DPP―4阻害薬は、体重は増加させないが、減少にも結びつかない。

「ところが、DPP―4阻害薬の研究で、この薬は肥満にも非肥満にも効くが、体重が下がれば下がるほどHbA1cの変化が大きいという結果が出たのです。つまり、肥満より痩せている人に効くのです」

 肥満度を示すBMIが30以上の人は、薬を飲んでもHbA1cの低下は6%が頭打ちだが、BMIが低い人は、6%未満まで低下。HbA1c6%未満は、血糖コントロール目標のひとつだ。

■薬価は1錠300.3円

 一方、SGLT2阻害薬はHbA1c低下と共に、体重も低下させる。体重を増加させやすいといわれる他の糖尿病薬にSGLT2阻害薬を追加しても、やはり体重は低下する。尿にカロリーを排出し、脂肪の分解を進めるからだ。

「肥満型にDPP―4阻害薬を投与する時は、肥満そのものを改善する薬と一緒の方が効き目が高い。体重低下にも働くSGLT2阻害薬と一緒に服用することで、それが期待されるのです」

 SGLT2阻害薬はブドウ糖をナトリウムと一緒に尿に排出するので、血圧低下作用にも優れている。非糖尿病と糖尿病で比較すると、後者の方が循環器疾患が起こりやすいが、その対策にも役立つ。

 配合剤の対象になるのは、2型糖尿病患者で、「DPP―4阻害薬(テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物)とSGLT2阻害薬(カナグリフロジン水和物)をすでに併用し状態が安定している患者」「前出の単剤で効果不十分な患者」のいずれか。副作用は、既存の知られているもの以外確認されていない。配合剤の薬価は1錠300.3円。2剤服用と比べて10割負担で約70円安くなる。

 糖尿病患者は高齢者が多く、ほかにも複数の薬を服用しているケースが珍しくない。配合剤の登場で、薬の管理がしやすくなるのは確かだ。

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