決算書でわかる有名病院のフトコロ事情

7校のうち6つが黒字決算 私立医科大学は儲かっているのか

私立医科大学の事業収支(写真は埼玉医科大学病院)
私立医科大学の事業収支(写真は埼玉医科大学病院)(C)日刊ゲンダイ

 大学付属病院は、教育施設という位置付けになっています。そのため課税対象外となっています。国公立大学の多くが1病院か、せいぜい2病院しか持っていないのに、私立の医科大学が3ないし4病院を開設していることに、ある種の違和感を覚える人が多いかもしれません。金儲けに走っているのでは、という批判もあります。

 しかし、各大学の決算書を見ると、そうではないことが分かります。2016年度の事業活動収支を<表>にまとめました。関東の7つの私立医科大学のうち、6校までは黒字決算になっています。埼玉医大の黒字額は約109億円、業績好調という印象を受けます。しかし他大学の黒字幅は決して大きくありません。独協医大はわずか1・3億円、日本医大は5・5億円ほどにとどまっています。

 医学部には金がかかります。入学定員はせいぜい120人ほどに過ぎませんが、教えることが多いため、多くの教員を抱える必要があります。しかも設備・備品などは、常に新しいものに更新していかなければなりません。学生が何万人もいる総合大学なら、医学部の負担を全体でならすこともできますが、単科の医科大学には無理な相談。代わりに複数の付属病院を持つことによって、なんとか帳尻を合わせているのが実情です。そうでなければ学費を6年間で1億円も取らなければ、採算が合わないでしょう。つまり、私立医科大学の付属病院は、日本の医師供給の何割かを支える、裏方の役割を担っているというわけです。

 東京女子医大は22億円の赤字に終わりました。前年度に特定機能病院の指定が取り消されたことが、付属病院の収入に影響したといわれています。特定機能病院は一般病院よりも、入院基本料などの診療報酬が高めに設定されています。国や自治体からの補助金・委託金も多めに入ってきます。また臨床研修医を集めやすいというメリットもあります。取り消しによってそれらの特典が失われたことと、風評による患者数の減少などが重なったことが響いたのでしょう。

 しかし、名医が揃っている上に、循環器・リウマチ・神経疾患・血液疾患などで定評があり、信頼を取り戻しさえすれば、すぐに経営を立て直すことが可能でしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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