「励みになる。また一軍でプレーしたい、との思いを強くした」
広島カープの赤松真人外野手(35)はチームの2連覇について、こう語っていました。実は昨年12月、ステージ3Aの胃がんが見つかり、チームを離れて闘病生活に。手術と抗がん剤治療を終えた今年7月、三軍に復帰し、調整を進めていたそうです。連覇を目の当たりにして、励ましてくれたチームメートに完全復帰する姿を見せ、恩返ししたいという思いもあるのでしょう。
報道によると、抗がん剤治療後には体重が10キロ以上も低下。筋肉は2割まで減ったそうです。体力と筋力の回復を図り、ランニングや基礎トレーニングを続けながら、技術トレーニングを重ねているといいます。
胃がんの手術後は、筋肉が衰えて体重が減少しやすい。これが問題なのです。赤松選手は、自分の本業に復帰するためのトレーニングですが、一般の方も胃がんの手術後は、体重減少を食い止めて、衰えた筋肉を取り戻すことはとても大切なのです。
なぜか。胃は、食べ物を一時的に貯蔵し、固形状のものを細かくしたり、胃液と混ぜて粥状にしたりしてから、ベストのタイミングで十二指腸に送り出します。切除で貯蔵と送り出し機能が低下することで、その後の消化吸収が不十分になるのがひとつです。
■食欲増進ホルモンの影響で
もうひとつは、食欲を増進させるホルモンのグレリンの影響。9割が胃の上部から分泌され、味覚にも影響します。手術で胃の上部が切除されると、残っている部分が大きくても食欲がわかず、思うように食べられなくなるのです。
この2つの影響が合わさって、術後1~3カ月後に体重が減少。がん研有明病院の比企直樹医師の調査によると、胃を全摘の場合、術後1年で平均18%も体重が減っていたそうです。
この時期は、手術後の回復過程でもあります。栄養状態が悪いと、縫合不全や出血など術後合併症のリスクが増しやすいことから、体重減少は、術後の状態に強く影響するのです。ステージ2Aや3Cでは、術後に再発や転移を起こすことがあり、抗がん剤が追加されることが普通です。そうすると、5年生存率が10%ほどアップするのですが、体重が15%以上減ると、7割近くが半年以内に抗がん剤を離脱するという報告があります。
抗がん剤は、正常細胞にもダメージを与えるため、体重が大きく減って抵抗力や体力が落ちた人は、口内炎や吐き気など抗がん剤の副作用が出やすく、それで食べられなくなり、ますます体重が減るという負のスパイラルに陥りやすいと考えられています。
胃がん治療は、ステージ3Cまでほとんどの病期で手術が第1選択。今後は、単にがんを切除するだけでなく、その範囲を考えて最適な手術法を選ぶことが大切です。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁