天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「先輩がした手術」という事情で再手術を断る外科医がいる

順天堂大学医学部の天野篤教授
順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 かつて、心臓手術は「再手術が当たり前」と考えられていました。例えば、冠動脈バイパス手術で使用される足の静脈や、弁の交換で使われる生体弁などには“賞味期限”があるため、一定以上の期間を超えるときちんと機能しなくなってしまうからです。

 しかし近年は、できる限り耐久性に優れた“材料”、あるいは自己成長を期待できる“生体材料”を使うことにより、再手術のリスクを大幅に減らせるようになりました。最初の手術だけで健康寿命を回復し、予想以上の長生きをされて天寿を全うする患者さんもたくさんいます。

 一方で、まだ「再手術が当たり前」と考えられていた20年以上前に手術を受けた患者さんの再手術も増えています。当時、最初の手術を受けた患者さんが高齢になり、再び心臓にトラブルが起こるタイミングに差しかかっているのです。

 これまでもお話ししてきたように、再手術は1回目の手術に大きく左右されます。最初の手術がエビデンスにのっとってしっかり処置されていれば、再手術もそれほど問題なく対応できる可能性が高くなります。しかし、最初の手術がエビデンスにのっとっていない方法だったり、心臓の機能を損なってしまうような処置が行われていたりすると、再手術のハードルがハネ上がってしまうのです。

 そうした患者さんは、再手術が必要になった際でも、外科医から「リスクが高いため手術はできない」と断られるケースが少なくありません。そのまま循環器内科に回され、投薬やカテーテルなどの内科治療でその場をつないでいる患者さんもたくさんいるのが現状です。かつて自分が手術を行った患者さんに対しても、責任を放棄してしまう外科医も残念ながらいるのです。

 また、患者さんの病状による事情ではなく、外科医側の事情で再手術が行われないケースもあります。

 医師は世代がどんどん替わっていて、まだ若いうちに手術から身を引く外科医もいます。そうした外科医がかつて手術を行った患者さんに後々心臓トラブルが起こって再手術が必要になったとき、「あの先輩医師が担当した手術だから、後輩である自分には手が出せない」という事情で再手術を断るケースがあるのです。「教授」という立場の権限が強い大学病院などでは、起こりがちな出来事です。中には、外科医だけでなく内科医も手を出せないようなケースもあります。

■他の施設なら再治療できるケースも

 もちろん、表向きは「高リスクなのでウチでは手術ができません」といった説明をされます。患者さん自身の問題ではなく、まったく関係ない理由で再治療を受けることができず、路頭に迷っている患者さんがいるのです。

 適切な再治療を受けて自分の身を守るためにも、患者さんは「医師側の事情で再治療を断られるケースもある」ということを頭に入れておく必要があります。たとえ、かつて手術を受けた病院で再治療を断られたとしても、他の施設や医師なら受け入れてもらえる可能性があるのです。

 再治療のセカンドオピニオンを受ける場合、断られた病院と同じ系列だったり同じ地域にある施設、断られた担当医と同年代の医師は避けることが大切です。「あの先輩医師がやった手術だから……」というしがらみがない施設や医師に診てもらうためです。

 そうした施設を選ぶには、病院ランキング本や病院のホームページなどが参考になります。治療実績をしっかり公表していて、自分に該当する症例を数多くこなしている施設を探しましょう。

 かつてお世話になった病院で断られたのだから仕方がない……と再治療を諦めている患者さんはたくさんいます。しかし、実際は再治療が可能なケースも多いのです。再治療のセカンドオピニオンを受けることに遠慮は必要ありません。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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