余命4カ月と言われた私が今も生きているワケ

「がん告知されたら仕方ない。堂々と泣いてみるのもいい」

高橋三千綱氏(C)日刊ゲンダイ

 しかし、地元のシェルパにしてみれば、山に登ることは日常の生活でしかない。私はスポーツジムにも興味はないし、ジョギングすることにも興味がない。好きとか嫌いではなく、単に興味が持てないということだ。

 長生きしたいから健康でいたいという人たちがいる。本来は何かしらの目的があるから長生きするという、手段が先でなくてならないだろう。

 今も忘れられないのは、映画製作をした際、山梨県の小淵沢までロケに行くお金がなくなり、妻と幼い娘に車を乗ってこさせ、八王子の中古車店で30万円で売ったことだ。そのとき、帰りの足を失った妻が3歳の娘と手をつないで坂道を上っていく後ろ姿が脳裏に焼き付いている。そのとき、家族を不幸にしてまで得る夢なんかあるものかと思った。

 娘は今、夫の仕事の都合でアメリカの西海岸に住んでいる。昨年、孫の顔を見るため、妻と行ってきた。娘の案内で見たドジャースタジアムの野球には感動した。

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高橋三千綱

高橋三千綱

1948年1月5日、大阪府豊中市生まれ。サンフランシスコ州立大学英語学科、早稲田大学英文科中退。元東京スポーツ記者。74年、「退屈しのぎ」で群像新人文学賞、78年、「九月の空」で芥川賞受賞。近著に「さすらいの皇帝ペンギン」「ありがとう肝硬変、よろしく糖尿病」「がんを忘れたら、『余命』が延びました!」がある。

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