Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

村野武範さんが告白 咽頭がんの治療は手術より放射線で

村野武範さん
村野武範さん(C)日刊ゲンダイ

「くいしん坊!万才」のリポーターなどで知られる俳優村野武範さん(72)が、中咽頭がんにかかっていたことをイベントで告白。話題を呼んでいます。一連の報道によると、2年前の5月に首にできた小豆ほどのしこりに気づいて受診。当初は「風邪」と診断されたそうですが、精密検査の結果、ステージ4の中咽頭がんと判明したとのこと。

 話題を呼んでいるのはそれからです。医師には「余命は聞かない方がいい」といわれ、余命いくばくもなかったようですが、夫を思う妻があちこちの病院を探し、陽子線治療を受けた結果、それがうまくいき、転移や再発もなく、元気に生活されています。

 喉は、咽頭と喉頭に分かれていて、食道につながるのが咽頭、気管につながるのが喉頭で、村野さんのケースは、咽頭の中ほどにできたがん。咽頭がんを発症するのは年間せいぜい2000人ほどで、がんの中ではまれながんですが、喫煙や飲酒の影響が強く、圧倒的に男性に多い傾向があり、お酒好きやスモーカーは要注意です。

 咽頭がんの5年生存率は、ステージ4で42%。肺がんや肝臓がんはステージ4だと10%を割りますから、治療成績は悪くありません。村野さんのようにあきらめずに、治療を受けることが大切です。

 咽頭がんを手術する場合、その術式はいくつかありますが、病巣を大きく切除する場合には、食べ物を飲み下したり、会話したりする機能が障害されることがあります。咽頭に近い喉頭がんから復帰した、つんく♂さん(48)のケースは、皆さんもご存じでしょう。

■放射線治療中の喫煙者は治癒率が低くなる

 そんな術後の後遺症リスクを食い止めるのが、放射線です。恐らく村野さんはステージ4ということですから、リンパ節転移はあるものの、遠隔転移はなかったのではないでしょうか。そうすると、放射線の一つの陽子線と抗がん剤を組み合わせて治療したと思われます。林家木久扇さん(79)は、放射線治療で声を失うことなく咽頭がんを治療しました。早期なら6~8割は、放射線のみで治ります。

 このがんは、飲酒と喫煙の影響が強いと書きましたが、喫煙は治療効果を左右することも分かっています。放射線治療中に喫煙している人は、していない人に比べて、治癒率が低いのです。もし喫煙している人が咽頭がんになったら、せめて放射線治療を受ける前までに禁煙することが一番です。

 咽頭がんの中でも、中咽頭がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の関与が指摘されています。女性の子宮頚がんを引き起こすウイルスです。オーラルセックスなどで、HPVが喉に感染すると、咽頭がんの発症リスクが高まり、咽頭がん全体の20%はこのタイプとみられます。しかし、HPVによるタイプは治りやすいのが特徴。声がかすれたり、飲み下しに違和感があったりしたら、すぐ耳鼻科を受診するのが肝心です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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