気鋭の医師 注目の医療

薬に頼らずおいしく楽しく 嗜好品を保健指導に取り入れる

椎名一紀講師 東京医科大学病院・循環器内科(東京都新宿区)

“血圧やコレステロールの数値が高めだが、できれば薬は飲みたくない”――。

 そう思っている病気予備群を中心に、嗜好品(好みの飲食物)を積極的に取り入れた保健指導を行っているのが椎名一紀医師だ。「薬に頼らず、おいしく楽しく病気予防」をコンセプトにしている。

「心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患を減少させるという、しっかりとしたエビデンス(科学的な根拠)が出されている食品はいくつもあります。それらの中から患者さんに合った嗜好品を選んでもらい、その取り方を指導しています。何より楽しみながら習慣にできるのが嗜好品のいいところです」

 血圧だと収縮期血圧(上)130~160(㎜Hg)の軽症、悪玉コレステロールでは160(㎎/デシリットル)くらいであれば改善する可能性がかなり高いという。

 椎名医師が主に用いている嗜好品は、ポリフェノールやオメガ3脂肪酸(EPAやDHA)などを含む食品だ。ポリフェノールが豊富なものでは、カカオ分70%以上の「高カカオチョコレート」「緑茶」「赤ワイン」など。

 オメガ3脂肪酸が多いのはサバなどの「青魚」。αリノレン酸の多い「クルミ」や不飽和脂肪酸の多い「アボカド」などもいいという。

「青魚は調理が必要ですし、赤ワインは適量が1日グラス1杯ですので向かない人もいるでしょう。平均して誰でも取りやすいのは高カカオチョコレートで、適量は1日20~25グラム(小分けで3~4枚)です。緑茶なら1日4~5杯。αリノレン酸はナッツ類に多く含まれ、食べると10~15%がオメガ3脂肪酸に変化します。クルミなら1日ひとつかみ(30グラム前後)です」

 もちろん食べ過ぎるとカロリーオーバーになるので意味がない。それに食生活のバランス、運動習慣、十分な睡眠などの生活の見直しも併せて大切になるという。

■投薬量が半分になった例も

 嗜好品の指導を開始したら、3カ月後くらいに再検査をして効果を判定する。単に血圧測定や採血だけでなく、脈波検査や内皮機能検査などで血管年齢、血管の硬さ・しなやかさなども調べる。

「薬と同程度の効果は望めません。たとえば弱い降圧薬を使うと収縮期血圧が10弱下がりますが、嗜好品による効果は平均3~5下がるという感じです。効果があまり出なければ途中で嗜好品を変えたり、必要なら薬を併用することもあります」

 椎名医師が2年前から嗜好品の指導を始めたのは、あまりにも情報が氾濫しているからだ。テレビ番組などで「○○を食べると体にいい」と知ると、そればかり食べる外来患者が多いという。サプリメントも高額だったり、まずいものを無理して食べている人も少なくない。医師から正しい情報発信をした方がいいと考えた。

「すでに薬を飲んでいる患者さんでも、2剤を1剤に減らせるケースがあります。どういう人に効果が高いのかは、今後の研究テーマです」

 非常勤の戸田中央総合病院(埼玉県)では週2日、専門に「嗜好品外来」を担当。ちなみに、これらの診療は保険診療の範囲内で行われている。

▽千葉県出身。1996年東京医科大学医学部卒後、同大病院循環器内科入局。戸田中央総合病院勤務(現在は非常勤)を経て現職。〈所属学会〉日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医、日本睡眠学会認定医など。

関連記事