軽症時から突然死 新たな「糖尿病合併症」はこんなに怖い

男性の16%が糖尿病の疑い(写真はイメージ)
男性の16%が糖尿病の疑い(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 推計患者数が初の1000万人に上った糖尿病。これまでクローズアップされてこなかった合併症が近年、専門家の間で注目を集めている。

 糖尿病の合併症でよく知られているのが、失明、人工透析、足の切断に至る網膜症・腎症・神経障害の「3大合併症」だ。年間で失明は3500人以上、人工透析は1万3000人以上、足の切断は3000人以上に上る。

 いずれも深刻な合併症だが、見方を変えれば「糖尿病を発症して数十年後、リスクが高くなる」合併症。その一方で、「突然死の危険がある」合併症は見過ごされてきた。

「心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患です。いわゆる3大合併症と違うのは、軽症の時から突然死の危険がある点です」

 こう指摘するのは、国立循環器病研究センター病院動脈硬化・糖尿病内科の槇野久士医長だ。

 循環器内科医の間では以前から糖尿病と心血管疾患の関係が問題視されてきたが、専門外の医師からは、患者に対する積極的な注意喚起は十分にされていなかった。それもあってか、糖尿病患者の2~3人に1人が「心血管疾患が糖尿病の合併症だと認識していない」という調査結果もある。

「しかし、糖尿病が心血管疾患の独立したリスク因子であることはさまざまな研究で報告されています」(槇野医長)

■従来通りの対策ではNG

 医学雑誌「ランセット」に掲載された論文では、糖尿病がない人の心筋梗塞のリスクを1とした場合、糖尿病がある人のリスクは男性2・7倍、女性4・3倍に跳ね上がる。女性の方がリスクが高い理由は分かっていない。

 また、糖尿病は動脈硬化を進行させるが、動脈硬化の危険因子である高血圧、高コレステロール血症、喫煙の保有数が増えるにつれ、心血管疾患死亡数は確実に増加。糖尿病でない人でも同じことがいえるものの、糖尿病群の増加の度合いとは比べものにならない。

「糖尿病があると平均余命が短くなります。日本で24年間追跡調査した結果では、男性は約9歳、女性は約7歳短い。原因のひとつが、心血管疾患なのです。糖尿病治療は血糖コントロールだけでなく、心血管疾患のリスク要因も見据えた治療が必要です」(槇野医長)

 糖尿病治療は、血糖値を正常範囲に下げ、維持するのが基本。ところが心血管疾患の予防も見据えた治療では、「血糖値を下げれば良い」という考えは当てはまらない。下がりすぎて起こる低血糖は、これまで認識されていた以上に弊害があると分かったのだ。

「低血糖と心血管疾患の関連性を調査した後ろ向き観察研究(過去のデータを収集したもの)では、1年間で3・1%の患者に低血糖が見られ、低血糖のあった患者は、そうでない患者より心血管疾患のリスクが79%高かったのです」(槇野医長)

 さらに、自己血糖測定の合間の血糖の変動を調べられるようになったことで、血糖が上昇・下降を繰り返す「数値の大きなばらつき」が動脈硬化を進行させ、心血管疾患のリスク増大につながることも分かった。

 つまり、心血管疾患を意識した糖尿病治療では、糖尿病治療薬の選択と生活習慣の改善・定期的な受診によって、「低血糖を避ける」「血糖の大きなばらつきをなくす」ことが欠かせない。

「糖尿病治療は個人によって変わります。血糖、体重、血圧など自分が目指すべき目標値を主治医に聞いてください。患者さん自身が心血管疾患のリスクを持っていることを自覚することも重要なのです」(槇野医長)

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