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5年目で悪性リンパ腫再発を繰り返しても20年で完治させた患者がいる

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長
都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 悪性リンパ腫にはたくさんの種類があります。質が悪くて治療しても不幸な結果になることが多いものや、治療しないで自然経過を見てもよいものなどさまざまです。

 日本人に最も多いのは「びまん性大細胞B細胞型」です。年齢に関係なく、薬剤で完治する可能性が高いのがこのタイプです。

 私が経験した約1000例の悪性リンパ腫の患者さんの中から、このタイプの患者さん3人を紹介します。

 病院事務職員のRさん(43歳・男性)は、結婚して半年後、風呂に入った時に両側頚部、腋窩部のリンパ節腫大に気づきました。熱も痛みもありませんでした。

 頚部のリンパ節生検で「悪性リンパ腫びまん性大細胞B細胞型」の診断となり、CT検査では腹腔内リンパ節も腫大していることが分かりました。ステージⅢでした。

 Rさんは化学療法で治癒を目指すことになりましたが、抗がん剤は精巣にもダメージを与えます。そのため、夫婦で相談して治療開始を数日遅らせ、産科のある病院で精子を保存してから治療が開始されました。

 抗がん剤は3~4週に1回のペースで8回繰り返しましたが、3回目の投与終了時にはリンパ節の腫大は消えました。この頃、同時に奥さんは体外受精が成功し、10カ月後には、かわいい女児が誕生しました。

 Rさんの治療も完遂し、5年後には完治と判断されました。外来で来院される時、Rさんはいつも娘さんの写真を見せてくれました。

■高齢でも治療は可能

 会社員のIさん(36歳・男性)は、顎の下、腋窩部にリンパ節腫大を認め、耳鼻科医院で生検されて「悪性リンパ腫びまん性大細胞B細胞型」との診断で来院されました。特に症状はなく、ステージⅡで早速、CHOP療法(3種類の抗がん剤に副腎皮質ホルモンを組み合わせた治療)が開始されました。

 3回目でリンパ腫は消失し、8回で治療終了。5年経過し、最後のCT検査で良好ならば完治というところでした。しかし、頚部に再発が見つかり、また治療をやり直すことになりました。

 薬剤を変更し、3回の治療で再びリンパ腫は消失。続けてさらなる地固め治療を行い、また5年が経過しました。「今度は大丈夫」と思っていたのですが、なんと同じく5年目で2回目の再発が認められたのです。それでも、Iさんは治療を続けてこれを乗り越え完治されました。リンパ腫が消えてから5年経過して再発がなければ治癒と考えます。Iさんのように5年目で再発を繰り返す方はほとんどいません。Iさんが担当医から「完治」の言葉を聞いたのは最初の治療から20年目です。本人もご家族もよく頑張ったと思います。

 Mさん(93歳・女性)はO商店街ではよく知られた元気なおばあさんでした。糖尿病がありましたが、本人はあまり気にされていませんでした。ある時、右の頚部リンパ節とへんとうが腫れ、近所の耳鼻咽喉科から紹介されて来院。「悪性リンパ腫びまん性大細胞B細胞型、ステージⅡ」と診断されました。高齢でしたが、3分の1量のCHOP療法を行い、3回目の治療でリンパ腫はほとんど消失、7回の治療で終了としました。治療の影響で一時、髪の毛が抜けてしまいましたが、その後は回復、完治され、終始元気に過ごされました。

 治療後、Mさんはご近所の友人の命日にはお宅に出かけて仏壇に手を合わせ、おまんじゅうやおせんべいをいただいて帰っては、糖尿病を気にせず夜中に食べたり、訪問したヘルパーさんが散歩に誘っても断り、帰るのを待ってからひとりで散歩に出かけたりするなど、たくさんのエピソードを残されたかわいいおばあさんでした。

 悪性リンパ腫が完治して通院もなくなりましたが、Mさんが100歳になられた時、娘さんたちと外来に来られ、一緒に記念写真を撮って下さいました。いつもニコニコされているのに、写真撮影の時だけは「笑って」と言っても、緊張されて笑顔をつくらなかったのが印象的でした。Mさんは102歳まで再発なく天寿を全うされました。

 悪性リンパ腫は、体の状態が悪くなければ何歳でも治療可能で、薬で完全に治癒する可能性がある病気なのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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