おたふく風邪の合併症で難聴に ワクチンは接種するべき?

0歳児から成人まで発症のリスクあり
0歳児から成人まで発症のリスクあり(C)日刊ゲンダイ

 今、おたふく風邪(ムンプス)についてさまざまな議論がネットを中心に飛び交っている。主となっているのは、「ワクチン接種は是か否か」だ。

 きっかけは日本耳鼻咽喉科学会が行った「ムンプス難聴の大規模全国調査」。ムンプス難聴は、おたふく風邪の合併症による難聴だ。

 全国の耳鼻咽喉科のうち3536施設が回答。2015~16年の2年間で348人がムンプス難聴と診断され、2次調査に応じた336人の8割、274人が高度難聴が残った。さらに16人は両方の難聴(両側難聴)だった。 

 ムンプス難聴は「ワクチン接種で予防できる唯一の後天性感音難聴(聴覚器の障害で生じる難聴)」といわれている。ムンプス難聴は治療法がほぼなく、一生付き合っていかねばならない。「予防できるのだからワクチン接種を」という声と、「ワクチン接種は副反応があるため反対」という声がある状況だが、どう考えたらいいのか? 答えてくれたのは、国立成育医療研究センター感覚器・形態外科部耳鼻咽喉科の守本倫子医長だ。

■副反応のリスクは?

 ワクチン反対派が指摘するのは、無菌性髄膜炎など副反応のリスクだ。

 しかし、国立感染症研究所によれば、無菌性髄膜炎の発生率は自然感染1~10%に対し、ワクチン接種後は0・1~0・01%。自然感染(ワクチンを接種せず感染)の方が無菌性髄膜炎の発生率が高い。

 また、髄膜炎で起こる脳炎は、自然感染0・02~0・03%、ワクチンは0・0004%。ほかの副反応も、自然感染の方が発生率が高い。さらには、睾丸炎など合併症の発生率も、自然感染の方が大きく差をつけて高い。

■ムンプス難聴に至るのはどれくらい? 

 一般的にいわれるのはおたふく風邪を感染した人の1000人に1人。

「999人はならないのだからワクチンを打つ必要があるか?」との声も上がっているが――。

「しかし、ワクチンを打っていれば難聴にならなかったのです。それをどう捉えるか、です」

■ワクチンを打てば  100%予防できる?

「2回接種すればほぼ100%おたふく風邪を発症せず、ムンプス難聴にもなりませんが、1回接種だけでは数%に免疫がつかないことがあります」

 なお、おたふく風邪の感染力は水ぼうそうや麻疹並みに強力だ。もし親が感染すれば、子供にうつし、兄弟間で広げ、その友人たちにも広げることにもなる。その逆もある。

「今回の調査結果では、発症は0歳児からあり、学童期に最も多く、次いで子育て世代に多く見られました。学童期に多いのは保育園、幼稚園、学校など集団行動だから。子育て世代は子供からうつされ、数が増えたのだと考えています」

■おたふく風邪が軽ければ難聴にならない?  

「感染しても軽い症状でとどめれば大丈夫」などと考える親もいる。

「おたふく風邪の重症度とムンプス難聴の発生率はイコールではない。耳下腺がわずかしか腫れない『不顕性感染』では、診断もされないうちにいつのまにかおたふく風邪が治っていた、というお子さんは珍しくありません。この場合、同じく知らないうちにムンプス難聴になっていた、というケースがしばしばあるのです」

 医師の中には「ムンプス難聴になっても片方の耳が聞こえないだけなら、ワクチン接種で髄膜炎などを起こすよりいいのではないか」と言う人もいるそうだが、片方だけでも一生聞き取りが悪く、耳鳴りにも悩まされる。冒頭の調査結果のように、両側性のムンプス難聴もあり両側聞こえなくなることもある。さらに髄膜炎のリスクは、自然感染の方が高いことは、すでに述べた通りだ。

「まだ受けていない人は、小児も成人もワクチン接種を検討すべきです」

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