突然死の危険も 「低カリウム血症」を甘く見てはいけない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 年とともに食が細くなってきたと思ったら、全身に力が入らなくなり、歩こうとしても足が前に出なくなってしまった。そうこうしているうちに心臓にトラブルが起こり、突然死を迎える――。独居の高齢者が増えているいま、「低カリウム血症」に注意したい。

 カリウムは「必須ミネラル」と呼ばれ、体の中で重要な働きをしている。筋肉や神経を動かす働きがあるほか、ナトリウムとバランスをとりながら細胞の浸透圧を調節して細胞を正常に保ったり、血圧を調整しながら体を安定化させている。

 カリウムが不足すると、筋力低下、筋肉痛、脱力、痙攣といった症状が見られるようになり、重症になると四肢麻痺、自律神経失調症、呼吸器麻痺などの重篤な症状が表れる。さらに深刻になると、骨格筋が壊れて横紋筋融解症を招き、それが原因の多臓器不全による命の危険がある。また、心室細動などの致死性不整脈を起こして突然死するケースもある。

 東邦大学名誉教授で平成横浜病院の東丸貴信総合健診センター長は言う。

「血液中のカリウム濃度は、3・5~5・0(mEq/L)という非常に狭い範囲で調節されていて、3・5以下に低下すると低カリウム血症になります。これが2・5以下になると、脱力や麻痺などの症状が表れます。細胞組織では、カリウムとナトリウムが出入りすることで細胞膜の興奮を発生させ、神経細胞の情報伝達を行ったり、筋肉を収縮させています。カリウムが不足すると細胞の電気興奮が不安定になり、筋肉細胞の塊である心臓トラブルの原因になるのです」

 中でも危険なのが突然死につながる致死性不整脈だ。カリウムは細胞の内外を出入りすることで心筋細胞の興奮による心臓拍動を調整している。低カリウム血症は細胞外のカリウム濃度が低いので、カリウムが細胞内に入ることができなくなってしまうのだ。

「低カリウム血症では、心筋細胞の興奮が収まるまでの時間が長くなります。すると、心電図波形のQ波とT波の間の時間が延びる『QT延長症候群』という病態を引き起こします。QT延長が起こり、その上に次の興奮がくると心臓は休む暇なく働くことになるため、心室細動につながってしまうのです。最新の欧州心臓病学会の論文によると、心不全があると、カリウム値が4・2から4・4の間が理想的で、多くても少なくても死亡率が上がり、2・5以下では3倍以上になるとのことでした」

■“食べられない”独り暮らしの高齢者は要注意

 命に関わる病気を回避するためにも、低カリウム血症を見逃してはいけない。原因は、①体外に排出されるカリウムの量が多い②カリウムの摂取量が少ない③血液中のカリウムが細胞内へ取り込まれてしまうという3つのケースが挙げられる。

①は下痢や嘔吐が続いてカリウムが失われたり、心不全などで利尿薬を服用している場合や、クッシング症候群やアルドステロン症といった副腎皮質の病気、腎臓病によるアシドーシスがある人が該当する。

②は偏った食生活が続いた場合に起こりやすく、ほとんど食べ物を口にしないで酒を飲む人や、高齢でまともに食事をしていない人は要注意。

③は血液がアルカリ性に傾いたり、インスリンが血液中に増えることなどで起こる。

「低カリウム血症を治療するには、原因をはっきりさせ、きちんと対処して改善することが必要です。低カリウム状態は血液検査を受ければわかります。ただ、筋肉痛や筋力低下の症状があるからと整形外科を受診した場合など、カリウム値を無視される可能性もあります」

 近年は独居の高齢者が増えていて、カリウムが豊富な野菜をほとんど口にしないなどの偏った食生活を送っているケースもある。おかしいなと感じたら、病院でカリウムの値をチェックしてもらった方がいい。

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