Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

南果歩さんは選択 乳がんでも治療を中断できるケース

抗がん治療を中断していることが明らかになった女優・南果歩
抗がん治療を中断していることが明らかになった女優・南果歩(C)日刊ゲンダイ

 驚いた人もいるでしょう。女優の南果歩さん(53)が、乳がん啓発イベントで「ハーセプチンという抗がん治療をストップしています。抗女性ホルモン剤の投薬もストップしています」と語りました。「手本にならずとも、見本にしていただければ」とがん患者に呼びかけたのです。

 結論からいうと、病期や乳がんのタイプによっては、治療を差し控える選択はアリだと思います。昨年3月、ステージ1の乳がんで、手術を受けました。その後の薬物治療で、血圧上昇の副作用が認められ、治療を中断したそうです。

 では、どんな病期やタイプなら、薬物治療を中断できるのか。

 ステージ1は、乳がんの大きさが2センチ以下で、乳房の外に広がっておらず、リンパ節への転移もありません。再発率は10%以下です。

 乳がんは、遺伝子の発現の仕方によって、ルミナルA、ルミナルB、HER2陽性、トリプルネガティブの大きく4つに分類されます。そのパターンによって、ホルモン剤や抗がん剤の効き方が変わってくるのです。

 ルミナルは、どちらもホルモン感受性の遺伝子が陽性で、ホルモン剤が効きやすい。Aはホルモン剤単独でよいケースも多いのですが、Bにはがんの増殖率が高いものやHER2陽性のものもあり、ホルモン剤に加えて抗がん剤や抗HER2治療薬のハーセプチンを加えることが標準治療なのです。

■抗がん剤で閉経する確率は20%程度

 南さんは手術後、ホルモン剤とハーセプチンの併用に触れていることから、がんのタイプはルミナルBと思われます。そこで加味するのが、ステージ1の病期です。

 先ほどステージ1の再発率は10%以下と書きました。逆にいうと、再発なく生存する確率が90%超ということです。

 これらを加味すれば、予防的な薬物療法に副作用が認められる場合は、一時的に治療を差し控えることを検討するという選択もアリだと思われるのです。

 抗がん剤治療によっては、閉経する確率が20%程度あります。抗がん剤が必要なタイプでは、しっかりと抗がん剤治療を行うのがベターですが、若い女性で妊娠を希望されるケースは、主治医とよく相談することが大切でしょう。

 薬物治療を中断した南さんは、サプリメントを飲むほかに民間療法に頼っているといいます。今年6月に乳がんで亡くなった小林麻央さん(享年34)もそうでしたが、民間療法はマイナスですから、治療を差し控えるのみでよく、サプリは不要。体の状態が回復したら、薬物治療を再開すればいいのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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