世界が注目 完治困難な「好酸球性副鼻腔炎」の新たな治療概念

“新しい概念”で手術も回避できる可能性も
“新しい概念”で手術も回避できる可能性も(C)日刊ゲンダイ

 慢性副鼻腔炎には完治が難しいタイプがあるが、最近日本で広まりつつある“新しい概念”によって、うまくコントロールできるかもしれない。

“新しい概念”とは、「one airway, one disease(一つの気道、一つの疾患)」というもの。国際アレルギー性鼻炎ガイドライン「ARIA」が提唱した。

 東京女子医大耳鼻咽喉科・野中学教授が説明する。

「かつては、アレルギー性鼻炎など上気道の疾患と、喘息など下気道の疾患は、別々に治療が行われていました。ところが新概念では、上気道と下気道は一続きの気道であり、それぞれは同じ一つの疾患であるとしています。上気道と下気道両方、併せて治療すべきとの考えです」

 これは、慢性副鼻腔炎にも当てはまる。

 慢性副鼻腔炎は、蓄膿症ともいわれる慢性化膿性副鼻腔炎と、好酸球性副鼻腔炎とがある。前者は副鼻腔が細菌に感染して発症。後者は、白血球の一種である好酸球が活性化し、副鼻腔の粘膜に炎症を引き起こしたものだ。

 慢性化膿性副鼻腔炎の場合、マクロライド系抗菌薬などでコントロールが可能だ。

 一方、好酸球性副鼻腔炎は、メカニズムがまだ解明されていないこともあり、完治は困難。薬物治療と手術を組み合わせて行っても、再発を繰り返すケースがほとんどだった。厚労省の難病指定になっている。

「新概念でアレルギー性鼻炎と喘息を併せて治療することになったように、好酸球性副鼻腔炎も喘息の状態を見ながら治療を行う。喘息の治療を十分に行うことによって、好酸球性副鼻腔炎がなかなか改善せず苦しんでいた患者さんの症状が軽減することが分かったのです」

■手術も回避できる可能性が

 野中教授らの調査では、好酸球性副鼻腔炎を含む慢性副鼻腔炎の患者の20%が喘息を合併。喘息患者では、40~73%が慢性副鼻腔炎を合併していた。

「喘息は、主に気道上皮細胞から作りだされるサイトカインによって“Th2型炎症”が起こり、骨髄での好酸球の生成が活発化し、それが気道粘膜に浸潤します。この好酸球は血流に乗って副鼻腔の粘膜にも運ばれ、好酸球性副鼻腔炎が起こります」

 そのため、喘息を合併する慢性副鼻腔炎の患者の重症度を、CTを用いて分類すると、「慢性副鼻腔炎の重症度」「血中の好酸球数」「喘息による痰の中の好酸球数」はすべて相関関係にあるという。

「つまり慢性副鼻腔炎、特に好酸球性副鼻腔炎をコントロールするには喘息のコントロールが欠かせないのです」

 野中医師らは、呼吸器内科の医師による喘息の評価のもと、それが不十分であれば喘息の治療を強化し、好酸球性副鼻腔炎の治療成績を上げている。ただ、これが今、どこでも行われているわけではない。

「喘息は症状が出ていないから治った、というわけではありません。呼吸困難が起こらなくても、継続した治療が必要です。ところが、治療を途中でストップしている患者さんも少なくない。喘息の症状が出ていなくても、治療が不十分であれば、好酸球性副鼻腔炎の改善もなかなか見られません」

「one airway, one disease」の概念のもとに、耳鼻咽喉科医と呼吸器内科医が情報を共有し、しっかり治療に当たることが重要だと、野中医師は指摘。

 好酸球性副鼻腔炎の患者には、再発を繰り返すたびに手術を受ける人もいるが、そうしなくても、症状をうまく抑え込むことができる可能性がある。

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