がんと向き合い生きていく

種類がさまざまな「小児がん」大学病院だからといって診療できるとは限らない

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 元癌研究会付属病院院長だった西満正氏は、「いたいけな小児の癌を治す道 早く見つけん高齢者癌よりも」と詠みました。この世で最も残酷で悲しいのは、若い人の死・子供の死であると思います。

 小児がん(0~14歳)の年間死亡数は約300人です。他の成人の多くのがんに比べると、亡くなる割合は少ないといえますが、ご家族や周囲のショックは計り知れません。

「小児のがん」といってもさまざまです。罹患数では、おおよそ白血病が30%、悪性リンパ腫が10%、脳腫瘍が14%、神経芽細胞腫が12%となっています。ですから、小児科で診察してもらえるとはいっても、小児の血液内科であったり、小児外科、脳外科であったりで、がんの種類によって科も違います。大学病院だからといって診療できるとも限りません。

 大学病院でも、ほとんどが白血病・リンパ腫を診ている病院、脳腫瘍を診ている病院など、診療できるがんは違っています。

 そこで、近年、国立成育医療研究センターを中心に、全国に小児がん拠点病院が整備されました。東京都では都立小児総合医療センターがそれにあたります。そこで聞けば、どの施設で診てもらえるかが分かります。

 小児がんは、幼児などでは本人の訴えが曖昧で発見が難しく、そして病気の進行が速いといえます。それでも、薬物治療、放射線治療ともに成人よりも効きやすく、治癒される方も多いのですが、残念ながら亡くなる方も出てきます。

■近年、全国に拠点病院が整備された

 小児がんは種類によって症状はさまざまです。白血病では発熱、貧血、血が止まりにくいといった症状が、悪性リンパ腫では痛みのないリンパ節の腫れ、発熱などがみられます。脳腫瘍は頭痛、嘔吐、手足の麻痺、歩行時によろける、神経芽細胞腫やウイルムス腫瘍(腎芽腫)は腹部の腫瘤などで発見されます。

 小児とは一般的に15歳までの児童をいいますが、たとえば3歳と14歳では理解力などがまったく違いますので、本人への病気の伝え方、説明などは異なってきます。長期の入院が必要になることも多く、治療には親と担当医、看護師らの連携がとても大切です。

 検査は、採血、エコー、CT、MRI、骨髄検査(白血病などの時に腰の骨に針を刺して骨髄液を吸引採取する)、脳脊髄液検査などが行われます。状況によっては全身麻酔で検査を行うこともあります。診断治療のためには必要なことですが、なかなか大変で、検査の様子を見ているお母さんに泣かれることもしばしばです。

 白血病では、治療により白血球の少ない時期に一定期間無菌室に入ることもあります。本人にも病気を治したいという強い気持ちが必要になってきます。また、入院中は勉強面のケアも実施され、院内学級や、教師が派遣される訪問教育などが行われます。本人、ご家族、医療者みんなで一緒に治癒に向かって頑張るのです。しかし、治療効果が得られなかった場合、再発などで治癒が難しくなった場合、死が近づいた時、個々の患者さんの心がどんな状態か、どう支えていくか、親兄弟、医療者たちは悩みます。共通した正解はなかなか見いだせないことも多くあるのです。

 14歳のある男の子の親御さんにお聞きした話です。その男の子は、白血病の再発を繰り返して病気のコントロールが難しくなり、いよいよ身体的にも厳しい状況になったその時でも、亡くなる前日まで病室で「受験勉強」を頑張っていたそうです。そのような患者さんに対して、「治らない」といった話はとてもできそうにありません。

 また、治癒された患者さんでは、手術、抗がん剤、放射線治療の影響など、治ってからも身体成長において長期の経過観察が必要なこともあり、重要な課題です。

 小児がんと診断された場合は、小児慢性特定疾病の医療費助成の制度などが利用できると思います。病院の相談室に相談してみてください。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事