薬の服用数は減らせるが…「合剤」が向く人と向かない人

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 近年、「合剤」(配合剤)と呼ばれる薬が続々と登場している。何種類かの薬の成分をひとつの薬に配合したもので、服用する薬の数を減らせるというメリットがうたわれている。だが、中には合剤が向いてないケースもあるから気を付けたい。

 合剤にはたくさんの種類がある。高血圧の薬(降圧薬)をはじめ、コレステロール降下薬、糖尿病治療薬、鎮痛薬、血液をサラサラにする抗血小板薬、緑内障治療に使われる点眼薬など多岐にわたる。たとえば、効果を高めるために違う種類の薬を組み合わせて処方することが多い降圧薬は、Ca拮抗薬+ARB阻害薬、ARB阻害薬+利尿薬、Ca拮抗薬+ARB阻害薬+利尿薬など、作用機序の異なる薬をひとつにまとめた合剤が数多くある。

 飲まなければならない薬が山ほどあってうんざりしている患者にとっては、合剤にすることで服用する薬の数が減れば混乱しないで済むかもしれない。これは大きなメリットだ。しかし、いくつもの薬をひとつにまとめるとなると、不安に思う人もいるだろう。

 薬は飲んでから効き目が表れるまで時間に差がある。飲んでから30分で効果が出る薬と、1時間かかる薬をひとつにまとめて飲んでも効き目は変わらないのだろうか。

 岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「基本的に、合剤は何種類かの薬効成分を組み合わせることで単剤よりも効果を高めることができるものがまとめられています。また、安全性を高めるために胃壁を保護する成分などを組み合わせて合剤にしているタイプもあります。なんでもかんでもひとつにしているわけではないのです。作用機序や効き目が表れる時間が異なる薬を組み合わせた場合でも、臨床試験で効果が認められたものしか認可されていないので心配はありません」

 ただし、合剤は薬の量を調節するのが難しい。そもそも薬は、服用する人の体格によって量を調節すべきものとされている。A薬を1錠、B薬が2錠必要な患者の場合、A1錠+B1錠の成分が含まれている合剤では、厳密には対応できない。

「たとえば、体重が30キロ台の高齢者などは、状態を見ながら処方する薬を調整していきます。ただ、その場合は薬の量よりも種類を変えるケースが多いので、それほど深刻に考える必要はないでしょう。問題は、病気が急性期で症状が目まぐるしく変わる患者さんです。病状によって薬の量や種類を変えて対応していくので、合剤は向いていません。合剤の多くが慢性疾患の薬なのはそのためです」

■胃の不調で正しい薬効が表れないケースも

 また、いくつも病気を抱えている人は合剤がNGなケースがある。

 たとえば、慢性疼痛の投薬治療では、鎮痛薬の合剤がガイドラインで推奨されている。しかし、鎮痛薬の合剤には、肝機能が悪い人が飲むと状態を悪化させる成分が含まれている。もともと肝機能障害がある人はもちろん、合剤を服用中に肝機能が落ちてきた場合は、単剤に切り替えなければならないという。

「胃の不調があって消化が悪い人も合剤に向いていません。薬には、胃で溶けて吸収されることで効果が表れるタイプと、腸で吸収されることで効果が表れるタイプがあります。その2種類を組み合わせた合剤は、腸で吸収するべき薬の周囲に、胃で吸収するべき薬がコーティングされています。そうした合剤を消化が悪い人が服用すると、いつまでも胃の中に薬が残ってしまい、腸で吸収すべき薬の成分を腸で吸収できません。逆に胃では吸収されずに薬がそのまま腸まで通過してしまい、正しい薬効が表れないケースも考えられます」

 血液をサラサラにして脳梗塞などを予防する薬に、前記のタイプの合剤がある。予防薬は、特に自覚症状がない状態で服用し続けるので、本人はその薬が本当に効いているのかどうかはわからない。そのため、胃の調子が悪い人がこの合剤を服用し続けた場合、実際には正しい薬の効果が出ていなかったことで、脳梗塞を招いてしまう可能性もありえるのだ。

 飲む薬を減らしたいからと、安易に合剤に飛び付くべきではない。

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