Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

南果歩さんが切り替え 乳がん代替療法は死亡リスク5.7倍

南果歩は乳がんの薬物治療を副作用で中断
南果歩は乳がんの薬物治療を副作用で中断(C)日刊ゲンダイ

 前回、女優の南果歩さん(53)が乳がんの薬物治療を副作用で中断したことに触れましたが、問題はその先。本来は、中断は「一時的」で、副作用が落ち着いたら治療を再開すべきですが、南さんは「代替治療に切り替えた」と語っています。中断はケース・バイ・ケースでOKだとしても、健康食品やサプリなどの代替療法への切り替えは決してよくありません。

 昨年8月、その根拠を示すのに十分な論文が発表されました。米エール大の研究チームは2004~13年にかけて、乳がん、肺がん、前立腺がん、大腸がんになった合計840人を追跡。代替治療を行う280人と標準治療(手術、放射線、抗がん剤)を行う560人に分けて生存率を比較したところ、代替療法群は標準治療群に比べて死亡リスクが2・5倍高かったのです。

 最もハイリスクは乳がんで5.7倍。以下、大腸がん4.6倍、肺がん2.2倍と続きます。前立腺がんは、リスクが上がる傾向はありませんでした。

■高学歴や60歳以下の女性は要注意

 今回の南さんだけでなく、同じ乳がんで亡くなった小林麻央さん(享年34)も代替療法に頼ったことが報道されました。米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏も、代替療法を優先するあまり、手術が9カ月遅れてすい臓がんで亡くなっています。

 05年に発表された国内の調査では、がん患者は44.6%が何らかの代替療法を利用。ほぼ2人に1人です。その中身は、サプリを含む健康食品が96.2%と圧倒的で、鍼灸は3%程度と少数派でした。

 欧米は、「通常治療の補完」や「通常治療の症状の緩和」を目的に鍼灸やマッサージ、心理療法が行われますが、日本は「がんの進行抑制」が67.1%、「治療」が44.5%と、南さんのような通常治療から代替療法への切り替えがうかがえます。

 毎月の支払額は平均5万7000円ですが、50万円かけた人も。今年8月には、科学的な根拠がない臍帯血を無届けで投与した医師が逮捕され、その患者は1回300万~400万円を支払っていたといいます。

 そんな多額のコストをかけても、冒頭の論文の通り代替療法はハイリスクです。「サプリくらいなら」と思うかもしれませんが、ビタミンEやβカロテンはがん化を促進する恐れがあり、ビタミンCは放射線や抗がん剤の治療を阻害するリスクが知られています。

 百害あって一利なしの代替療法ですが、利用者は高学歴の人が多いのが特徴。ほかの特徴は、60歳以下の女性、抗がん剤治療を受けたことがある人、現在ホスピスや緩和ケアに入院している人など。いずれも世界的な傾向です。周りに勧められても、手を出さない方が無難でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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