がんと向き合い生きていく

セカンドオピニオンで「担当医が酷い」と訴える患者も

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「どうしても相性が悪い」「感情的なしこりがある」「酷いことを言われた」……。

 がん治療を受けている患者さんの中には、今の担当医との関係に悩んでセカンドオピニオンに来られる方がいらっしゃいます。がん治療中で自分の命を預けていると考えると、簡単に病院を替えるわけにもいかず、理屈では割り切れないこともあるわけです。

 たとえば、近年は治療法の選択肢が増えたこともあり、医師は「患者の自己決定権」を尊重して善意のつもりで「自分で決めてください」と告げることもあります。しかし、その時の医師の態度や話し方にもよると思いますが、患者さんによっては「突き放された」「温かさがない」と感じる場合もあるのです。

 特に治療効果がなかったことなど“悪いニュース”を告げられる際は、がん患者や家族からすると「冷たい」という印象を受けることがあります。

 胃がんで肝転移があるBさん(48歳・男性)は、担当医から「化学療法が効かなくなった。新たに転移が見つかった」と言われ、本当かどうか確認したいとのことで私の所にセカンドオピニオンとして来院されました。

 診療情報提供書やCT検査などから病状は悪化しており、担当医の診断に間違いはないと判断できました。ところが、Bさんの訴えは、この病状悪化についてではなく、「担当医から酷いことを言われた」ということでした。

 抗がん剤治療を始める前、担当医から「無治療の選択もあります」と言われたが、それは「治療しても意味がない」ということではないか? そして、化学療法の点滴を行うたびに「この治療が効かなくなったら緩和しかありません」と繰り返し言われ、途中でがんと闘う気力がなくなって本当にイヤになったというのです。

■治療は患者さんと医療者の共同作業

 さらに、今回は「化学療法が効かなかったので、もう治療法はありません」と告げられ、セカンドオピニオンを申し出たら「好きな病院に行っていいですよ」と言われたといいます。Bさんは「担当医のところには絶対に戻りたくない。こちらで治療を受けたい」と強く希望されていました。

 Bさんの場合、以前から医師に言われた気に入らない言葉の数々に不満を持っていて、これが治療中止、病状の悪化の宣告を受けたことをきっかけにして、一気に憤りが表れたのだと思いました。治療効果があって、病状が良くなっている場合は、医師の気に入らない言動にも患者さんは我慢して過ごされることが多いように感じます。また、「これまで治療を親身になってしっかり行ってくれた。一生懸命やってくれた」と患者さんが感じている場合は、病状の悪化を告げられても受け入れられることが多い印象です。

 がん治療は「患者さんと医療者との共同作業」ともいわれています。大事なことは、普段の診療で「患者さんが医師・医療者と話しやすい雰囲気にある」と感じているかどうかであると思います。

 Bさんほどではなくても、医師との関係がうまくいかないで困っている場合は、まず、病院のがん相談支援センター(相談室)で相談してみることです。医師の言動にも問題はありますが、中には患者さんの一方的な思い込みということもありえます。患者さんから「担当医を替えて欲しい」と言われることもありますが、これは病院のスタッフなどの事情によって、可能な場合も不可能な場合もあります。

 また、がん拠点病院のがん相談支援センターでは、患者会や「患者サロン」を教えてくれることがあります。そうしたところに参加して、患者さん同士で意見を交換してみるのも方法です。場合によっては、実際の医師の評判を聞けるかも知れません。

 患者と医師の「相性」とは、理屈では解決しない、人によってはなかなか難しい問題です。受診されている病院では言い出しづらい時は、他院でのセカンドオピニオンもひとつの方法です。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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