「先生、私の『上咽頭がん』はステージ4の進行がんなのですか?」
「そうです」
「ステージ5になるとどうなりますか?」
「そんなものはありません!」
5年前の2012年4月、東京・錦糸町に住む高橋節男さん(76)は、「東京医科歯科大学医学部付属病院」(東京・御茶ノ水)耳鼻咽喉科の診察室で、担当医師と交わしたこんな会話を懐かしく思い出す。
「『がんの5年生存率』を今年でようやくクリアして、実はホッとしているところです。これで生き延びたかなと」
がんサバイバーにとって診断から5年経過することは重要だ。これを無事に越えると再発のリスクは格段に少なくなるからだ。
高橋さんは20代でビル建設業の会社を起こし、景気のいい時期は、10人近い従業員を雇用してきた。
しかし、老体に建設現場の仕事はきつい。60代後半で引退。夫婦2人だけの生活を楽しんでいた。
「5年前、いきなり、首の左側に、自然に隆起したようなピンポン球大のコブが出来たのです。触っても押しても痛くない。私は長いこと鼻炎の持病を持っておりましたから、原因はこれかなと軽く思っていました」
■医師は4通りの治療法を提示
妻から強く勧められ、自宅から近い「賛育会病院」(墨田区)を訪ね、耳鼻咽喉科の診察を受診した。
問診の後、鼻から内視鏡を挿入された。モニターを見ながら医師が、「『上咽頭がん』が疑われます。急ぎ大きな病院で精密検査を受けてください」と告げた。たまたまその医師が「東京医科歯科大学」から出向していたことから同病院を紹介され、翌日高橋さんは妻と同伴で訪ねた。
MRIやCTスキャンの検査。さらに「生検」の確定診断で「上咽頭がん、ステージ4」と、告知される。コブはリンパ節に転移して出来た腫脹だった。
「あまりショックはなく、だいたいステージ4と言われても、どの程度進行しているのかわかりませんでしたね。ただ、患者数が少ないケースのがんです、と、説明しておりましたけど」
40代から70代に多い「上咽頭がん」は、珍しいがん。鼻の奥から食道までの間に出来る悪性腫瘍で、上部位から「上咽頭がん」「中咽頭がん」「下咽頭がん」の3つに分かれる。
高橋さんは鼻の奥にがんが発症した「上咽頭がん」で、国立がんセンターの統計では、年間約500例。
今後の治療法について高橋さんは、医師から4通りの治療法を提示され、選択を迫られた。
選択肢は①漢方療法②化学療法(抗がん剤と放射線療法)③外科的手術④丸山ワクチンだった。
自宅に戻った高橋さんは、妻と4人の子どもを招いて家族会議を開くことになる――。
末期がんからの生還者たち