教育入院の研究から導き出した「脂肪肝」解消法って何だ

 過食や運動不足で余った糖質や脂質が中性脂肪に変わり、それが肝臓全体の30%以上を占める状態を「脂肪肝」という。最近はお酒を飲まないのに健康診断や人間ドックで指摘されている人も多いはずだ。放置すると炎症を伴う非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)となり、糖尿病や肥満、高血圧、動脈硬化ばかりか、肝がんの発症リスクまで高くなる。どうすれば脂肪肝は消せるのか? 栃木県の国際医療福祉大学病院で教育入院システムを立ち上げ、「静かに迫りくる脂肪肝 NASHを識る」(メジカルビュー社)の著者でもある国際医療福祉大教授で順和会山王病院内科の岡崎勲医師に聞いた。

 病気を治すにはその実態を知り、「治す」ための強い動機付けが必要だ。国際医療福祉大学病院のNASH教育入院では、脂肪が肝細胞を膨らませて破裂している顕微鏡写真を見てもらうという。

「自分の体の顕微鏡写真ですから真剣に見て理解してくれます。そのうえでお腹の脂肪組織がホルモン臓器で、脂肪が蓄積すると心臓を守るアディポネクチンが減り、TNF―αと呼ばれるサイトカインが産生され、肝臓、心臓、腎臓、血管などさまざまな臓器に炎症を起こすこと、その炎症がもとになって脂質代謝異常や糖尿病、高血圧、がんが発症するという病気のメカニズムを繰り返しお話しします」

 そのうえで「食生活の改善」「運動の強化」に着手するわけだが、同時に手をつけてはいけない。

「2つの生活習慣を同時に変えられる人はまれです。挫折しないよう、まずは食生活の改善でどこまで脂肪肝をなくせるかにチャレンジします。おおよそ2~4カ月の食生活の改善でも体重が減らない人は運動をしてもらいます。それでも肝臓の数値が変わらず脂肪肝が消えなければ、薬を使うことになります」

■やみくもに炭水化物を制限してはいけない

 食生活の改善で大事なことは1日の総カロリーの設定と、その中での炭水化物、タンパク質、脂質などの割合を守ることだという。

「単に食事量を減らすだけだと栄養不足になってむくんだり、太ったりします。糖質を一気に減らすのも間違いです。日本糖尿病学会の食品交換表を利用しましょう。客用茶碗に軽く半分のご飯、卵、納豆1パック、赤身の刺し身5切れ、トロ3切れ、鮭3分の2切れ、ステーキ40グラムなどを1単位と考え、炭水化物は全体のカロリーの50~60%とします。仮に1日の総カロリーが1400キロカロリーなら、炭水化物9、果物1、タンパク質5、牛乳・ヨーグルト1・5、油1、野菜1・2、調味料0・8単位にとどめます」

 糖質はインスリンを消費するので減らした方が良いとの考えがあるが、50%は取るべきだ。

 まったく運動習慣のない人は、週5日毎日1回食前30分の有酸素運動および週2回1時間歩く。

「ジムなどでたくさん運動する必要はありません。運動をしている人と、していない人では脂肪の燃焼の仕方が違うものの、一般的に脂肪の燃焼は運動を始めて30分以内で終了します。それ以上は筋肉のグリコーゲンがエネルギー源として寄与します。糖質の燃焼が運動をやめるまで右肩上がりに増えるのとは違うのです。また、空腹時の方が脂肪は燃焼しやすく、運動する前に炭水化物を摂取すると脂肪の燃焼は減少します。そこで30分、1日1回でいいから食前に運動することです」

 その効果は抜群で、インスリン抵抗性が改善するなどがわかっている。

 薬は最終手段だが、特効薬のピオグリタゾンは投薬をやめる時期を決めてから始めるという。また、糖尿病のない人とある人では選択する薬が違ってくる。覚えておこう。

「薬は1年半の使用を目安にしています。また、糖尿病予備群である人の脂肪肝は糖代謝異常が原因で肝臓に蓄積した中性脂肪を減らすことが目的。厳格な血糖コントロールを行います。具体的にはHbA1cが6~6・4%の人は6%を目指して、メトホルミン、ボグリボース、シタグリプチンなどを使います」

 糖尿病のある人はメトホルミン、インクレチン、SGLT2阻害薬などが有効だが、低血糖には注意が必要だ。

「研究では、脂肪肝で線維化した肝臓も治療次第で元に戻ることがわかっています。投げ出さないようにしましょう」

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