皮膚を科学する

食べてもいないのになぜ? 辛味成分に触れると温かい理由

靴下や下着に入れて暖を取ることも
靴下や下着に入れて暖を取ることも(C)日刊ゲンダイ

 昔から寒冷地では、「トウガラシを靴下や下着の中に入れて暖をとる」という話がある。実際にトウガラシ加工の靴下も市販されている。食べてもいないのに、なぜ温かいのか。「池袋西口ふくろうクリニック」(東京)の藤本智子院長が言う。

「それはトウガラシの主成分であるカプサイシンが皮膚に触れることで、灼熱(しゃくねつ)感をもたらし交感神経を介して熱を産生するからです。なぜ、熱をもたないトウガラシに灼熱感があるのかと言えば、実際に熱いものを感知する『温覚』とは別に、皮膚の細胞膜に『温度感受性TRPチャネル』のひとつである『TRPV1』という受容体が存在するからです」

 TRPV1は、カプサイシンだけでなく酸や43度以上の温度などでも活性化する。「辛味」は「痛み」に似た感覚で、43度は体に痛みを引き起こす温度閾値(いきち)と考えられている。つまり「辛い」「熱い」「痛い」は、同じ仕組みで体は感じているという。

「皮膚にカプサイシンが触れることでTRPV1が活性化されて、それが灼熱感を起こしているのです。言い換えれば、皮膚が『辛味』を感じ取っているのです。ショウガ風呂が体を温めるのも、ショウガの辛味成分がTRPV1を活性化させるからです」

 チゲなどを食べるとき、熱いほど辛さが増して舌が痛く感じるのも同じ。ただし、味覚の場合、「甘味」「苦味」「塩味」「酸味」「うま味」は舌の味細胞で感じるが、脂溶性のカプサイシンは舌の上皮を通り抜けて、その下の感覚神経で感じとる。トウガラシを食べて、少し時間がたって辛く感じるのはそのためだ。

「シャンプーや食品などに配合されているミント成分のメントールが『スーッ』と感じるのも、温度感受性TRPチャネルの作用です。これは25度以下で活性化する『TRPM8』という受容体によって感じています。ハッカ風呂も冷涼感がありますが、本来は体を温めるために入るものです。“体が冷たい”と感覚神経をダマすことで、体の熱の産生が促されるからです」

 舌の味細胞に発現が見られる「TRPM5」は、15~30度の温度によって活性化される。それに「甘味」に対しては、温度が高いほど活性化される特徴がある。アイスクリームは口に入れた瞬間よりも、口の中で溶けてきた方が甘く感じるのは、そのためだという。

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