末期がんからの生還者たち

上咽頭がん<2>手術は痛そうだから抗がん剤を選択

死についても考えた
死についても考えた(C)日刊ゲンダイ

 5年前の4月、東京・錦糸町に住む高橋節男さん(76)は、「東京医科歯科大学・耳鼻咽喉科」(御茶ノ水)の確定診断で「上咽頭がん・病期はステージ4」の告知を受けた。

 すでにがんはリンパ節(頚部の左側)に転移しており、大きさが数センチにもなっていた。

 担当医は高橋さんの家族に、今後の治療法として「漢方療法」「化学療法(放射線療法と抗がん剤の併用)」「外科的手術」「丸山ワクチン」の4通りを提示し、意見を求めた。

「上咽頭がんというのは、初期症状が分からないそうですね。自覚症状として難聴とか耳鳴りがあるそうですが、私にはまったくありませんでした。頚部、左側のリンパ節がピンポン球大に腫れて出来たコブで、上咽頭がんを初めて知った時、もう病期は末期でした」

 治療にどの方法を選択するか。高橋家で家族会議を開いたとき、子供たちがネットで「上咽頭がん・ステージ4」を検索し、机に山のような資料を積み上げた。

 家族間で意見の対立もあったが、治療法の選択肢は、やはり担当医の意見に沿うことになる。 

「担当の先生が説明するには、漢方薬治療は治療期間が長くなること。ステージ4の一般的な治療は化学療法が中心。手術は成功率が五分と五分。丸山ワクチンは自由診療になる、ということでした」(高橋さん)

■死についても考えた

 ちなみに、「上咽頭がん・ステージ4」の5年生存率は、47・5%(「全国がんセンター協議会」2014年10月集計)である。

 生きるか、死ぬか。半々の確率だが、「どうも根治治療といっても手術は痛そうだし」(高橋さん)と、治療法は「化学療法」を選択した。

 東京医科歯科大学の入院病棟に、2カ月間入院した。最初の1カ月間は毎日、約30分間、顔にマスクをつけ、首のリンパ節を含む広範囲な放射線治療を受けたのである。

 同時に点滴による抗がん剤も挿入された。

「放射線療法中に着用した下着は、他の洗濯物と別々にして洗ってくださいと言われました。そのため妻が着替えを持って病院に、3日置きに通ったでしょうか」

 これほど長期間の入院は、高橋さんにとって初めての人生経験である。しかも、「上咽頭がん・末期」と診断されても、体のどこにも痛みはなく、歩行も通常である。

 1日約30分の放射線治療が終わると、一日中ベッドで時間を潰す。

「死について考えたこともありました」と言う。

 1カ月間に及ぶ化学療法の治療を終えて、MRIなど精密検査があった。担当医から、「がんが縮小していますよ」との朗報を受け、高橋さんは妻の手を取って喜び合う。

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