年内接種は無理? インフルワクチン250万本不足の懸念

食事や睡眠も十分に
食事や睡眠も十分に(C)日刊ゲンダイ

 毎年1000万人が発症し、関連死を含め1万人が死亡するインフルエンザの流行は、12月ごろに始まり、1~2月ごろにピークを迎える。インフルエンザワクチンはその一番の予防策。接種後2週間で効果が表れるため年内接種が望ましいとされるが、今年は希望する時期に打てないかもしれないという。なぜか? 対策を含め、北品川藤クリニック(品川区)の石原藤樹院長に聞いた。

「厚労省の試算では今年のインフルエンザワクチンの生産量は2528万本。これは昨年の生産量で250万本以上、使用量で114万本も少ない数字です。その理由はワクチン製造株の選定の遅れによるものです」

 インフルエンザワクチンのもととなるウイルス(ワクチン株)は、例年5月ごろに決定する。WHO(世界保健機関)発表の推奨ワクチン株に加え、国内外の流行分析を参考に国立感染症研究所(感染研)などが決める。

 ところが今年はそれが7月半ばにずれ込んだ。新たに入れ替えたワクチン株のひとつが増産しづらいことが判明。7月半ばに急きょ昨年と同じワクチン株に改めたからだ。

 政府は、「不足分は昨年使用量の4%程度」として、医療機関に13歳以上の1回接種を徹底させるほか、返品を前提とした注文をさせないよう指示。ワクチンの効率使用を目指すという。

 しかし、インフルエンザワクチンは任意のワクチン。2回接種の希望を拒むのは難しいのではないか。

 2015年8月に「プロスワン」という米国の科学誌に掲載された慶応大学などの研究チームによる論文では、インフルエンザワクチンの予防効果は、A型に対して3~5歳で73%、6~12歳で58%。B型は、3~5歳で44%、6~12歳で30%だった。その一方で、13~15歳ではA型で12%、B型で23%と悪かった。発表当時は13~15歳ではワクチン効果は薄いかのようにいわれたが、その一方で1回だから効果がなかったのではないか、との見方もある。

■1日11回以上の手洗いが効く

 そもそも、ワクチンの効果は打った人の罹患リスクを下げるだけでない。83%のインフルエンザワクチン接種率を達成した集団では、接種していない人もインフルエンザにかかりにくいといわれている。

「そのことが、会社や学校の集団感染を防ぎ、接種対象となっていない生後6カ月未満の乳児や、アレルギーによりワクチン接種ができない人を守ることにつながっています。インフルエンザは乳幼児や高齢者の肺炎を併発させ、糖尿病や心臓病などの基礎疾患を悪化したりしますから、この効果は軽くは考えられません」

 逆に言えば、今回のワクチン不足はこうした集団や弱者を危険にさらすことにつながりかねない。

 むろん、予想と違うウイルスが流行したり、予想が当たってもウイルス変異により、思うような効果が出ない事態も考えられる。しかし、当初予想と違うワクチンを作り、それが品不足というのは心配ではないか。

 しかも、今年のインフルエンザへの懸念はそれだけじゃない。

「インフルエンザにかかった人はタミフルなどの抗ウイルス剤を使いますが、脳症などを心配される場合は一般的にアセトアミノフェンと呼ばれる解熱鎮痛剤を使います。ところが、これを多く生産している国内の医薬品原薬メーカーが承認内容と異なる方法で製造したものを流通させていたことが報道され、生産がストップ。10月中に顆粒のアセトアミノフェンが品薄になるとの懸念が報じられたのです」

 幸い、生産が再開されたと報じられ、現在は品薄感はない。今年は例年以上に自衛策が必要になりそうだ。

「大事なのは手洗いです。1日11回以上手洗いする人は、そうでない人に比べて55%も呼吸器系ウイルス疾患を抑えられたとの論文があります。また、手洗いの予防効果を示すネット教材を使うことで2割発症を抑えたという報告もある。指の間や手の甲、手首までキチンと洗い、清潔なタオルでふき取ることが大切です」

 併せてうがいの徹底と人の集まるところには必要があるとき以外、極力行かないこと。免疫力を高めるため食事や睡眠を十分とることなどが大切だという。

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