東京・錦糸町に住む高橋節男さん(76)は2012年4月、「東京医科歯科大学・耳鼻咽喉科」(御茶ノ水)の確定診断で、「上咽頭がん、ステージ4」の告知を受けた。すでにリンパ節にも転移しており、ステージ4は病期(1~4段階)の末期である。
すぐに入院し、ステージ4の基本治療といわれる「IMRT」(強度変調放射線治療)や定位照射治療を含むX線による外部照射治療を受けた。「毎日約30分の放射線治療で、治療中は寝たままの不動の姿勢です。痛みもなにもありませんが、ただ、ゴーッという静かな音が聞こえていましたね」
入院棟病室に戻ると、点滴による抗がん剤治療を受けた。こうした治療の繰り返しが1カ月間、休むことなく続く。1カ月後、MRIなどの精密検査を受け、担当医師から「がん細胞はずいぶんと小さくなっています」との朗報を受ける。
治療は2カ月目に突入し、毎日の放射線治療も5日に1回になった頃、ようやく退院の許可が出た。担当医師から「今後は通院して放射線治療を受けてもらいます」と言われ、自宅から近いJR錦糸町駅から、病院がある最寄り駅の御茶ノ水駅まで通院することになった。
放射線治療の副作用として、疲労感、だるさ、食欲不振、貧血などがある。だが、高橋さんは、これらの副作用をまったく感じなかった。1日3回の食事もうまい。40年間、建設現場で働き、「真夏は体に塩が噴くほど酷使した強靱な体力のおかげで副作用から逃れられたのでは」と本人は言う。
■医療費は1割負担で約8万円
退院してから1年あまり、ほぼ2カ月単位で放射線治療を1週間に1回、やがて10日に1回になり、最後は月に1回だけとなった。そして、再度の精密検査で担当医から「がんは完全に消滅しましたよ」と告げられた。 その日の夜、高橋さんは1年間守っていた禁酒、禁煙を破って胸の底までたばこの煙を吸い込み、焼酎の水割りを2杯も飲んだ。
「『私のがんはたばこが原因ですか? 酒が原因ですか?』と聞いたところ、担当の先生が『直接の関係は認められません』と言う。それなら、人様に迷惑をかけないのであれば好きなたばこと酒をやめて何が人生かと。妻は怒っていましたけどね」(高橋さん)
今年の春、高橋さんは「がんの5年生存率」をクリアした。ちなみに、「上咽頭がんステージ4」の生存率は50%前後(国立がん研究センターなどの統計資料から)と推定されている。
「ステージ4」の末期がんから無事に生還した高橋さんの医療費は、1割負担で約8万円だったという。
末期がんからの生還者たち