末期がんからの生還者たち

上咽頭がん<4>「今は命の尊さをかみしめています」

高橋節男さん
高橋節男さん(C)日刊ゲンダイ

「東京医科歯科大学医学部付属病院・耳鼻咽喉科」(御茶ノ水)の確定診断で、「上咽頭がん・ステージ4」の告知を受けた高橋節男さん(76=墨田区在住)は、今年の4月で待ち望んでいた「5年生存」を越えた。

「これで俺も生き延びたかなと思いました。まだ孫たちと遊べるかなと」

 と笑顔を向ける。

 2カ月間入院し放射線治療と抗がん剤治療を併用した集中治療を受けた高橋さん。退院後には、長い治療生活が待ち受けていた。

 その間、1カ月目、2カ月目、半年、1年の間隔で、MRIなどの診察が行われた。その結果、がんは順調に縮小していた。3年目に担当医師から、「もう、がんの治療は終了します」と、告げられた。

 それでも、がんの転移などを心配し、治癒の目安となる「5年生存」を迎えるまで1年に1回の通院は継続した。

「この5年の間に、CTやMRIなどの検査を何回受けたでしょうか。実はそのおかげで、がん以外に新たな病気が見つかり3回手術を受けました」

 1つ目は、通院3年目の頃、担当医師から「鼻を手術しましょうか」と、言われた。

 高橋さんは30年来「慢性鼻炎」の持病があり、ギョーザや納豆を食べても少しもにおいを感じない。一日中鼻詰まりの状態で、そのため、鼻の穴から挿入するポンプ式スプレーの鼻炎薬が手放せなかった。

「この鼻炎が上咽頭がんを誘因したと思いませんが、鼻の手術は長い間、顔の皮膚をべロッとむくと思い続けておりました」

 ところが医師は、「いまどきそんな手術はしませんよ」と一笑し、鼻の穴に内視鏡を挿入し、約40分の手術で、“鼻茸”を全部切除してくれたのである。

「いやあ、空気のにおいを何十年かぶりに味わいましたね。上咽頭がんが完治するのと同じくらいにうれしかったです」

 さらに脳大動脈の2本に、血栓が詰まっていたことが明らかになった。

 ただし医師からは「手術は、上咽頭がんが完治し、『5年生存』の期日を迎えた後にしましょう」と言われていた。

 晴れて今年の夏に1本目の手術が行われた。足の付け根から局部までカテーテルを挿入し、血栓をからめとる手術(血栓回収療法)が行われた。

 術後、1週間入院し、2カ月の間をおいた今年
の9月に2本目の手術が実施された。手術法は同じで、やはり1週間ほど入院した。高橋さんは今、しみじみとこう語る。

「病院嫌いで無鉄砲な人生でしたが晩年に、上咽頭がんという大病にかかり、幸い治療で救われた。さらに鼻炎も治り、脳梗塞の直前で血栓まで見つかり治療を受けた。この年になって、あらためて命の尊さをかみしめていますよ」

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