飲み会が増える季節 転倒や打撲を軽く見てはいけない

お酒好きは要注意だ
お酒好きは要注意だ(C)日刊ゲンダイ

 最近は11月決算の会社も増え、残業帰りに同僚と一杯という人も多いはず。時に酔っぱらって気が高ぶり、転んだり、タクシーの乗降の際に頭をぶつけたりする人を見かけるが、軽く考えてはいけない。その時には何でもなくても、硬膜下血腫を発症しているかもしれない。

■数カ月後にボケやマヒ、ふらつきが

「慢性硬膜下血腫は、頭部への衝撃で頭蓋骨の下にある脳を包む硬膜と脳がぶつかり合うことで毛細血管が切れ、その隙間(硬膜下腔)に血がたまる病気です」

 こう言うのは「赤坂パークビル脳神経外科」(東京・港区)の福永篤志医師だ。

 この病気が厄介なのは、頭から血が出たり、たんこぶができたりするようなひどい打撲でなく、記憶にないくらいの打撲でも発症すること。その時は何でもないと思っていても、頭の中の細い血管が切れ、少しずつ出血していき、1~3カ月経って症状が表れるケースもある。

「頭が重い感じがすることから始まり、血腫が大きくなるにつれて脳を圧迫し、強い頭痛が表れます。血腫場所によっては手足が動きにくいとか歩きにくいといった軽いマヒ症状が出ることも。物忘れがひどくなり、精神的に錯乱する人もいます。特に高齢者は血腫による認知症の症状を、加齢によるものと勘違いされ、精神科の受診を勧められることが多い」(福永医師)

 放置して血腫の圧迫が脳ヘルニアまで進行すると、脳の奥にある生命維持中枢の脳幹が侵され、死亡することもある。

「慢性硬膜下血腫の患者さんは60歳以上が半分を占めますが、40代、50代も少なくありません。2~3月は雪に足をとられて転倒して発症する人が多いのですが、これからの季節はお酒を飲んだ男性の患者さんが目につきます。出血しやすいからです。脳梗塞や虚血性心疾患、不整脈、糖尿病の人などで血液をサラサラにする薬を飲んでいると、さらにリスクが高まります」(福永医師)

 血腫は徐々に大きくなるため、頭を打った時は何ともなくても、おかしいなと感じたら脳神経外科医を訪ねることだ。

「“スリッパが脱げやすくなった”“つまずきやすい”“歩くと体がどちらかに偏る”などを自覚したら、病院で相談しましょう。検査はCTでもできますが、MRIだとより確実です。血腫と脳が色分けされ区別できます」(福永医師)

■手術の難易度は高くはないが…

 まれに、たまった血が自然吸収されることもあるが、症状が表れた時点で、治療は手術しかないというのが一般的だ。

「ただし、適応外処方になりますが、学会で報告されている五苓散と呼ばれる漢方薬が使われることがあります。脳の水分のバランスを調整する利尿剤としての働きがあるといわれ、慢性硬膜下血腫の進行を抑えたり、治したとの症例報告があります」(福永医師)

 実際に手術となると頭に穴を開けて血を抜くことになる。大変な難手術のイメージを描きがちだが、脳神経外科医にとってはそれほど難易度の高い手術ではないという。

「手術では局所麻酔でドリルにより頭に1つないしは2つの穴を開けて、硬膜と血腫被膜を切開してその中の血をカテーテルで抜く。そうするとマヒしたところなどが手術中に元に戻って、みるみる良くなっていきます」

 遅くても1週間程度でマヒや認知症の症状が消えるという医師もいる。

 むろん、再発するケースもあるから、油断は禁物だ。

「手術した人の8~20%は再発するともいわれています。その場合は、同じ穴を使って治療すれば治ります。ちなみに手術で開いた穴は肉芽組織となります」(福永医師)

 お酒好きな人はとにかく頭をぶつけないように注意することだ。

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