がんと向き合い生きていく

骨肉腫の多くは手術と化学療法で治癒するようになった

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 高校生のM君(17歳・男性)は、サッカーが好きな少年でした。試合中に左下腿に痛みを感じ、最初は打撲だろうと思っていました。それが2週間経っても良くならず、骨にヒビが入っているのではないかと思って自宅近くの整形外科を受診したところ、Aがん拠点病院を紹介されました。

 X線などの検査の結果、「骨肉腫」の診断でした。病名は両親だけに伝えられ、M君は「手術で良くなる」と告げられたようでした。しかし、その時にはすでに両肺に小さな転移があったのです。

 M君は手術が必要だと伝えられていましたが、左大腿から切断されるとは知らされていませんでした。病名が本人に隠されたのは、両親の希望でもあり、また当時としては仕方がないことでしょう。しかし、麻酔から覚めて下肢がなくなっていることを本人が知った時は、どんな気持ちであっただろうか、どんなにつらかったであろうかと思います。

 手術から数日後、M君の病室の壁に飾られていたサッカーのユニホームと試合中の写真は外されていました。

 肺転移に対しての化学療法を相談された私は、抗がん剤の「メトトレキサート(MTX)大量療法」を中心とした治療を勧めました。普段、白血病や悪性リンパ腫に使う100倍以上の量を投与しますが、MTXは腎臓から尿へ良く排出され、ロイコボリンという中和剤を使うとほとんど副作用はありませんでした。現在も、MTX大量療法は治療の中心です。

 化学療法によって、M君の肺の転移は一時縮小しましたが、次の治療を開始する前には以前よりも増大することを繰り返しました。転移は次第に肺全体を占めるようになり、1年後には呼吸困難となって残念ながら亡くなりました。

 骨肉腫は患者の約70%は40歳以下で、10代の青少年に最も多く見られます。出来る場所は四肢、特に膝の周囲など下肢に多く、主な症状は局所の疼痛・腫脹です。治療は一般整形外科ではなく、より専門的に骨軟部腫瘍を診療している整形外科で行われます。特に骨軟部腫瘍科を標榜している病院もあります。

■患肢を温存する工夫も進歩している

 また、骨肉腫は肺に転移することが多く、中にはM君のように病院に行った時、すでに転移している患者もいます。

 MTX大量療法が開発される前は、手術した後で約80%は肺転移が起こって亡くなっていましたが、この治療法が使われるようになって、肺転移は抑えられる患者が多くなりました。そして、手術と化学療法によって骨肉腫の患者の多くが治癒するようになったのです。

 他にも、シスプラチン、イホスファミド、ドキソルビシンなどの抗がん剤が使われています。

 若い患者は腎機能が良好な場合がほとんどで、MTX大量療法や、他の抗がん剤も相当量使えます。しかし、中高齢者では腎機能が低下していることから副作用のリスクが高くなります。そのため、若年者と同等の量を投与するのは困難なことが多く、若い患者ほどの治療成績は得られていないのが現状です。

 また、骨肉腫は診断した時はすでに病気が全身に広がっている“全身病”と考え、手術の前に化学療法を行ってから手術を行うことが多くあります。手術では、以前は患肢を切断してしまうことが多かったのですが、近年は患肢を温存して正常組織(骨)を含んで肉腫を切除した後に骨再建術を行う工夫が行われています。手足を残し、人工の骨・関節、放射線で腫瘍細胞を死滅させた処理骨、自家骨移植などを使って再建します。

 骨肉腫を克服された方の中には、水泳、陸上、車いすバスケットなどのスポーツで頑張り、活躍されているアスリートもいらっしゃいます。2020年の東京パラリンピックを目指している選手の中にも、骨肉腫だった方がおられるようです。感動するとともに、応援したいと思います。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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