公費による中学生のピロリ菌検診・除菌になぜ慎重論が?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 胃がんとの関連性がハッキリしているのがヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)だ。近年、中学生にも公費で検診・除菌治療を行う自治体が増えつつある。親はそれをどう考えるべきか? 専門家に聞いた。

 がんができる前にピロリ菌を除菌すれば、胃がん予防につながる。成人(一般的に高校生以上)では、内科医が内視鏡検査で胃炎の確定診断をし、その後ピロリ菌感染と診断されると、除菌治療が保険適用になる。

 一方、中学生までは小児科の領域。そして小児科医は、中学生へのピロリ菌検診と除菌に関して、慎重な姿勢を示す人が多い。「日本小児栄養消化器肝臓学会」の「小児期ヘリコバクター・ピロリ感染症の診療と管理ガイドライン」改訂を担当した順天堂大学大学院医学研究科・清水俊明主任教授が言う。

「一番の問題は、除菌治療が小児に対して保険適用がない点です。『公費で補うならいいのでは』との声もありますが、お金の問題ではない。保険適用がないということは、安全性が認められていないということ。現段階では重篤な副作用の報告はないものの、今後もそうとは限りません」

 それでも「小児のうちに除菌をした方が胃がん発症リスクが低くなる」といったエビデンスがあれば、話は変わってくるかもしれない。

 ところが、「ピロリ菌除菌が胃がん予防になる」というエビデンスはあるが、「小児のうちに」というエビデンスはない。さらに、ピロリ菌除菌をしても胃がん発症リスクがゼロになるわけではない。

 小児でも、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、鉄欠乏性貧血などには、ピロリ菌除菌治療を行う。この場合内視鏡検査後、胃から採取した菌を培養し、複数ある除菌薬のうちどれが効くか感受性を調べる。慎重に慎重を重ねてピロリ菌除菌をするのは、これらの病気の治療に不可欠だからだ。症状が全くない中学生に安全性が認められていない薬を使うのとはワケが違う。

「感受性を調べて投与すれば、除菌成功率は90%を超えます。ところが一般的な除菌では、感受性の検査は行いません。中学生では内視鏡検査もしない。ピロリ菌除菌の成功率は成人で70~80%、2回目で90%強といわれていますが、小児では2回目で80%弱です」

■理想は「早期除菌」だが…

 何度も除菌治療を行えば、薬に対して耐性菌ができる。中学生が成人になった時に不利益を被る可能性がある。

「高校生になれば成人として保険適用の対象になります。なにも保険適用外の中学生のうちに除菌を行わなくてもよいのでは」

「日本ヘリコバクター学会」の意見はどうか? 学会理事長で富山大学大学院消化器造血器腫瘍制御内科学講座・杉山敏郎教授は「『胃がん予防には早期除菌』という点では理事全員が一致していますが、中学生除菌には理事の多数は『慎重派』」と言う。前述の通り中学生までは小児科領域であり、小児科医が「反対」している状況では、無理に中学生へのピロリ菌検診・除菌を進めることが困難だからだ。

 なお、日本のエビデンスではピロリ菌は12歳まで感染リスクがあり、12歳以下で除菌しても再感染する可能性がある。つまり、あまりに早期の除菌では再感染が起こり、胃がん予防に結びつかない可能性もある。早期除菌が胃がん予防に有効といっても、中学3年生と高校1年生の除菌で胃がん予防効果に大きな差が出るとも考えにくい。

「個人的な意見として、ピロリ菌の検診・除菌治療の低年齢化を進めるにしても、内科の領域になる高校生以上が現実的でしょう」(杉山教授)

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