Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

安藤忠雄さんはがんで臓器を5つ摘出しても1日1万歩生活

安藤忠雄さん
安藤忠雄さん(C)日刊ゲンダイ

 ぜひ参考にしてほしいことがあります。建築家安藤忠雄さん(76)の生きざまです。展覧会の開催に合わせて各メディアに掲載されたインタビューには、「内臓がなくても問題ない」と書かれていて、がんで5つの臓器を摘出したことを笑い飛ばしていたのです。

 2009年にがんを発症。胆のう、胆管、十二指腸を摘出。14年には、膵臓と脾臓も摘出したといいます。断定はできませんが、臓器の摘出状況から考えると、安藤さんは膵臓がんで、そのための手術を2回受けたのかもしれません。

 そうだとすれば、1回目は膵頭十二指腸切除で、2回目は膵体尾部切除の可能性があります。前者は、外科手術の中で最も切除範囲が広く、「大手術」の代名詞。膵臓の右半分の膵頭部のほか、十二指腸、胆管、胆のう、さらに胃の一部や膵頭部の周りのリンパ節なども切除。2回目で、残った膵臓の一部と脾臓まで切除したとしたら、当然、体調に与える影響は大きい。

 さすがに当時は絶望したそうですが、そこは大阪生まれの明るい性格。「失敗してもその次、さらに次を考えて前に進んできました。何があってもへこまない」と語っていたのが印象的でした。

■運動はがんを抑制する要素

 そんな安藤さんは1日1万歩を目標に、毎日歩いて事務所に通っているといいます。元気の秘密はいくつかあるでしょうが、最大の要因が運動でしょう。

 東京ガスの社員データでは、定期健診を受診した男性9677人を運動量により、①運動不足②やや運動不足③平均的④比較的運動している⑤積極的に運動している――の5グループに分けて追跡。平均15年にわたってがんの死亡率を検討した結果、がん死亡率は「運動不足」が最も高いことが判明。「平均」の2倍以上、「積極的」の4倍近いことが分かったのです。よく運動するほど、がんの死亡リスクが低下することが分かります。

 米国立がん研究所によると、運動をしている人はしていない人に比べて、大腸がんのリスクが平均で40~50%、乳がんのリスクが30~40%低下することも判明。逆に運動不足だと、子宮がんや前立腺がん、肺がんのリスクが上昇することを関連づける疫学調査もありますから、運動はがんを抑制する要素といっていいでしょう。

 がんの成因のひとつとして、活性酸素によって遺伝子が傷つくことが考えられています。しかし、定期的な運動をしている人は、活性酸素から身を守る作用がアップ。さらに、持久的な運動が、がんの発生や増殖を抑える免疫機能を高めるとする報告もあります。

 安藤さんの「1日1万歩生活」は、これらのデータを裏づけるもの。一般には、ウオーキングなど汗がにじむ程度の運動を週2、3回以上、1日30分以上続けると効果的です。皆さんも生活に取り入れてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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