末期がんからの生還者たち

村野武範さん<1>「余命は聞かない方がいい」と告げられた

村野武範さん
村野武範さん(C)日刊ゲンダイ

「誰にも知らせませんよ、そんなもん。聞いた人は“お見舞い行かなきゃ”って思うでしょう? そういうの面倒だから」

 独特の早口で笑い飛ばす俳優の村野武範さんに、大病の片鱗は見られない。聞けば、親、兄弟にも病名を知らせぬまま実質3カ月で仕事に復帰したという。

 2015年に発覚した中咽頭がんは、転移もみられたステージ4だった。

「何げなく首を触ったら、硬いあずき大のしこりが1つ指に触れたんです。なんだろうと思って近所の病院に行ったら、若い先生が『風邪です』っていうんだよ。咳も熱もないのに、なんかおかしいと思って、ベテランの先生のいる病院に行ったら、『精密検査をしたほうがいい』と言われました」

 大きな病院を紹介され、検査を受けた結果、しこりのそばに3カ所のがんが見つかった。多発リンパ節腫で舌根にも浸潤していたことがわかり、中咽頭がんステージ4のAと診断された。

「そう言われてもピンときませんでした。痛くもなんともないんですから。そこでは、抗がん剤と放射線の標準治療と、その副作用について説明されました」

■妻が調べた陽子線治療を受けるために東北へ

 髪が抜け、口の中は荒れ、ものが食べられなくなり、歯は抜け、爪は変形し、肌はただれる……。流動食用に胃に穴をあける胃ろうを作ることになり、1~2年は過酷な闘いになると告げられたという。思わず「余命はどのくらいですか?」と聞くと、医師は「それは聞かない方がいいですよ」と言葉を濁したそうだ。

「その時、女房がその医師にたずねたんです。『陽子線治療はどうでしょうか?』って。そうしたら 『どこで何をやっても同じです』って言うもんだから、2人とも黙り込んじゃいました」

 妻は、友人のご主人が末期の前立腺がんを重粒子線で治したという話を思い出し、末期の中咽頭がんが治ったケースをインターネットで必死に調べていたという。そして、陽子線という治療法があり、東北にそれができる病院があることも調べ上げていた。

「私はすっかり諦めて“ああ、近々死ぬんだな”と思っていましたが、その日の夜中、女房が寝ている私を起こして言ったんです。『やっぱり東北へ行きましょう』って。“どうせ死ぬならやってみるか”と思い、行くだけ行くことにしました(笑い)」

▽村野武範さん(72歳)
 1945年、東京生まれ。1972年、27歳のときにドラマ「飛び出せ!青春」(日本テレビ系)で熱血教師役を演じ、人気俳優となる。1988年、43歳で「くいしん坊!万才」(フジテレビ系)を担当し、3年間出演した。現在、39年ぶりとなるCDシングル「ハマナス」(クラウン徳間ミュージック)が発売中。

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