天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「バチスタ手術」は決定的な外科治療とはいえなかった

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

■それでも拡張型心筋症の治療は進歩している

 術後の一時期は左心室の収縮が改善されるものの再び悪化するケースが多く、バチスタ博士が始めた頃は4割くらいの患者さんが術中術後に死亡しています。日本での症例を見ても、本来はバチスタ手術が必要ではない状態だった患者さんを除けば、ほぼ全員が手術後3年もせずに亡くなっています。私も2人ほどバチスタ手術を経験しましたが、どちらの患者さんも術後1年半ほどで亡くしてしまいました。

 心臓移植しか残された道がない患者さんにとって最後の希望ともなり得るドラマチックな術式なので話題になりましたが、拡張型心筋症を完治させるような決定的な治療ではなかったということです。あくまでも、心臓移植までの“つなぎ”としての延命治療だといえるでしょう。

 ただ、こうした歴史の中で、新たな治療法も進歩しています。薬物治療がそのひとつです。心臓の働きを弱めて血圧を下げるβ遮断薬を使って、拡張型心筋症の症状をコントロールできるケースがあることがわかってきました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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