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新規の放射線内用療法で末期前立腺がんの生存期間を延ばす

JCHO東京新宿メディカルセンター放射線治療内科の黒崎弘正部長
JCHO東京新宿メディカルセンター放射線治療内科の黒崎弘正部長(提供写真)
JCHO東京新宿メディカルセンター放射線治療科 黒﨑弘正部長

 同院放射線治療科の黒﨑弘正部長(顔写真)は、骨転移したがんの治療のエキスパート。昨年3月、ホルモン療法の効かない前立腺がん(去勢抵抗性前立腺がん)の骨転移に対して、国内初のα(アルファ)線を放出する放射性医薬品(ゾーフィゴ)が承認されたが、いち早く取り入れて高い治療成績を収めている。

 骨転移の放射線治療は、体の外から放射線を照射(外照射)して痛みを緩和する方法が一般的だが、放射性医薬品を静脈注射するという方法(放射線内用療法)もある。黒﨑部長が言う。

「放射性医薬品は放射線を出す物質を含んでいて、体内に入るとカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質があります。代謝が活発になっているがんの骨転移巣に多く運ばれるので、それによって体内でがんを選択的に叩くのです。ただし、薬品はRI(ラジオアイソトープ)管理区域でないと注射できないので、どこの病院でも行えるわけではありません」

■国際共同試験では4カ月延命

 これまで骨転移の放射線内用療法では、がん種を問わずβ(ベータ)線の放射線を出す「ストロンチウム―89(メタストロン)」という薬品が使われていた。

 それが特に骨転移を起こしやすい前立腺がんの場合、α線の放射線を出す「塩化ラジウム―223(ゾーフィゴ)」という選択肢が増えたわけだ。

「ゾーフィゴの何が画期的かと言うと、痛みの緩和効果だけでなく、末期の前立腺がんの患者さんでは生存期間が延びることです。国際共同第Ⅲ相試験のデータでは、生存期間が約4カ月延び、死亡リスクが30%低下するとされています」

 同科がゾーフィゴの治療を始めてまだ1年3カ月ほどだが、実施数は24人で国内トップクラス。患者の経過をみると、半数弱は前立腺の腫瘍マーカーであるPSA値が下がり、骨転移のマーカーであるALP値はほとんどの患者が下がっているという。

 従来のβ線に比べてα線のがんに対する破壊力は7000倍と強力。それでいて、体内でα線の力が届く距離は0・1ミリ未満(β線は数ミリ)と短い。そのため正常細胞に影響を及ぼすことは少ないとされている。

「注意する副作用として、骨髄抑制(血液成分の減少)や悪心、下痢、嘔吐、食欲不振などが挙げられていますが、いまのところ患者さんに心配されるような副作用は出ていません。体内に入った放射線を出す物質は、骨転移の部分に付かなかったものは便に排出されてしまいます」

 ゾーフィゴは月1回(5㏄前後)、4週間あけて6回注射する。外来で受けられて、治療中に日常生活で制約することは特にないという。ただし、骨以外の臓器に転移がある場合は適応外なので、メタストロンや外照射で対応することになる。

「ゾーフィゴの最大の特徴は延命効果ですが、最後の治療という考えではいけません。転移性の去勢抵抗性前立腺がんの90%は骨転移を有するので、転移したらすぐ治療することが大切です」

 前立腺がんの治療を受けるなら、放射線治療科が充実している病院を選んだ方がよさそうだ。

▽栃木県出身。1995年群馬大学医学部卒、2001年同大学院修了。東京都立駒込病院、虎の門病院などを経て、12年から現在の病院(旧東京厚生年金病院)に勤務。〈所属学会〉日本医学放射線学会治療専門医、日本核医学会核医学専門医など。

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