私が医学部で教育を受けたのは今から30年以上前の1980年代です。その時に「かっけ論争」について学んだ記憶はありません。
しかしはっきりしていることは、私が受けた医学教育は、どのようなメカニズムで病気が起き、どのような仕組みで薬が効くのか、という論理ばかりだったということです。
当時の医学教育は明治時代と同じく「事実より論理」に重きが置かれている状況だったのです。かっけ論争の反省がどこにも見当たりません。
この事実は、東大を頂点とする医学教育の王道は、かっけ予防についての間違いを全く反省せず、何事もなかったかのように論理偏重の医学教育を延々と続けていた、ということを示しています。
しかし、最近の医学教育では変わりつつあります。事実の証拠を重視するEBM(根拠に基づく医療)についての教育が、大部分の医学部で行われるようになってきています。
私自身もいくつかの医学部と薬学部でEBMに関する講義を行っています。
とはいえ、まだ問題はあります。医学部でのEBMの講義の大部分は、内科や外科などの臨床医によって行われることは少なく、公衆衛生の分野の臨床医でない人たちに委ねられている場合が多いのが現状です。
論理による証拠だけでなく、事実による証拠に基づく医学教育が、公衆衛生の医師でなく、臨床医の手によって行われ、臨床医学全体に、さらに深く、広くEBMが浸透していくには、まだまだ時間がかかりそうです。そのためにこそ、かっけ論争はすべての医学生が学ぶべき内容だと思うのです。
そしてまた、論理が優先される医学においては、論理に合わない事実を前にすると思考が停止し、下手をすればその事実を無視してしまいかねない危険をはらんでいる。それを、患者さんとなる読者の方たちも知っておいて欲しいのです。
数字が語る医療の真実