入浴より安全で体にもいい サウナの誤解と正しい楽しみ方

上手に活用したい
上手に活用したい(C)PIXTA

 元大関・若嶋津の二所ノ関親方(60)がサウナ帰りに転倒、入院・手術したことで「サウナは危ない」と思った人もいるのではないか。しかし、サウナはむしろ体に良い点が多い。正しい入り方と併せて元鹿児島大学大学院循環器呼吸器代謝内科教授で医療用サウナの研究・普及を目指す「和温療法研究所」所長の鄭忠和医師に聞いた。

「サウナで汗をかくことはストレスを解消し、リラクセーション効果があります。全身の血管が拡張して血流が改善されることで代謝が良くなります。さらに血管内皮細胞を修復するNO(一酸化窒素)などの物質やホルモンを分泌させて潰瘍や損傷した神経などを治す効果があります」

■入る時間は1回5分~10分程度

 実際、サウナは病気の治療にも使われている。室内を均等の60度に設定した乾式の医療用サウナによる「和温療法」は、難治性の心不全や下肢切断の対象となる閉塞性動脈硬化症、慢性疲労症候群、線維筋痛症などへの有効性が確認されているという。

「2010年に改定された慢性心不全に対する日本循環器学会ガイドラインで、和温療法はクラス1(有効)として掲載され、積極的に推奨される治療として循環器専門医からも承認されています。5年前には、和温療法は慢性心不全に対する『高度先進医療』として高度先進医療専門会議で承認されました」

 現時点で、この治療法は保険適用されていないがそれには理由がある。

「高度先進医療に指定された期間内に診た患者さんは拡大した心臓が縮小し、歩行速度が上がるなどの多くの効果が確認できたのですが、心不全を診断するための指標であるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は薬で治療した群と比べて有意差が出なかった。患者さんが重症者だったこと、患者数も1人10回の治療回数も少なすぎたことも原因と考えています」

 その後、海外の医療機関が行ったサブ解析で多くの優位性が指摘されたことから複数の医学会の推薦による保険収載の動きがあるという。

 ちなみにサウナは入浴と同じ医療効果があるが水圧がないぶん心臓負担が少なく安全だという。

「サウナについては医療関係者でさえ誤解している点があります。例えば『サウナに入ると血管が拡張して血圧が下がる。それを解消しようと心臓の負担が増えるが、脳への血流が悪くなって倒れる』という論調です」

 実際は血管が拡張して血圧が下がっても、血管抵抗性がなくなったぶん心臓の負担は減り、脳を含め血流は改善して健康な人なら倒れることはないという。

 サウナで具合が悪くなるのは飲酒後に入ったり、もともと脳の血管が狭窄していたり、心臓に血栓ができていたり、などの障害があったり、血圧が低いのに急に立ち上がって脳が虚血状態になったり、血圧調整障害をもっている場合。あとは“湯あたり”だ。大量の汗で体温調節ができなくなり、熱性失神、熱性けいれん、熱性疲労などを起こしてしまうケース。しかしこれはきちんと水分をとっていれば問題ない。

■最初は「ひな壇の下」に座る

 サウナを楽しむにはどうすればいいのか?

「入る前に体重を量りましょう。汗で減った水分量を知るためです。かけ湯で体を温め、水分もとります」

 最初はひな壇の下に座る。サウナに入った直後は交感神経が刺激されて血圧が上昇するからだ。

「サウナの室温は床と天井で25~30度違います」

 入る時間は1回5~10分程度。元を取ろうと、無理してはいけない。

「汗が出て心地よいところで出るべき。体を休め、これを2、3回繰り返す程度にしましょう」

 ふやけた皮膚は汗孔が閉塞され、汗の量が少なくなる。そんなとき汗を出そうと長時間頑張ってもムダだ。

 サウナと冷水浴を繰り返す人がいるが、医学的利点はハッキリしない。

「脳梗塞などで手が麻痺した人などは、手など局所の温冷交代浴により腫れが引き、痛みが緩和するなどの効果が確認されています。しかし、全身の温冷交代浴はきちんと検証されていません。やめなさい、とは言いませんが急な温度変化は神経反射を起こし脈が遅くなって不整脈や心房細動が出やすくなる。心臓が悪い人や高血圧の人は注意が必要で、高齢者の方は控えた方がいい」

 ちなみに、医療用サウナが民間のサウナより温度を低めに設定しているのは、熱刺激で交感神経を刺激しないようにするためだという。

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