がんと向き合い生きていく

多発性骨髄腫には治療をせずに経過観察で済むタイプがある

佐々木常夫氏(C)日刊ゲンダイ

 運送業のCさん(55歳・男性)は、健診の採血で「異常タンパクがある」と指摘され来院されました。お元気で症状はまったくありません。採血では、血清免疫グロブリンの測定からMタンパクが認められた以外は特に貧血もありませんでした。

 骨髄穿刺による骨髄像では形質細胞のわずかな増加であったことから、無治療で経過をみることになりました。年4回ほどの採血検査、その後は半年に1回の検査でもMタンパク以外には異常を認めませんでした。すでに10年が経過し、なにも治療することなく元気で過ごされています。

 YさんとCさんは同じ多発性骨髄腫でしたが、その種類が異なっていました。血液の中には「免疫グロブリン」というタンパクが存在します。これはウイルスや細菌などの異物(抗原)が体内に侵入した時に排除するためにつくられる物質(抗体)で、体を守る大切な“武器”です。形質細胞は免疫グロブリンをつくる役割がありますが、形質細胞が腫瘍化すると役に立たない異常なタンパクをつくってしまいます。これが「Mタンパク」です。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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