専門医が指摘 糖尿病で怖い「合併症」招きやすい人の共通点

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病で怖いのは合併症だ。高血糖によって全身の血管が傷んでしまうことで、さまざまな病気を引き起こす。中でも、失明につながる網膜症、人工透析につながる腎症、下肢切断につながる神経障害が3大合併症と呼ばれている。

 さらに、心筋梗塞や脳卒中を招く心血管疾患、がん、認知症との関係も明らかになってきている。糖尿病治療は、合併症を防ぐための治療といってもいい。

 しかし、治療を続けて合併症が出ないまま天寿をまっとうできる患者がいる一方、治療を受けていても合併症を発症する患者もいる。

 運送業のKさん(46歳・男性)は、今年の夏に右足の親指を除く4本の指を切断した。皮下組織が死滅して腐敗する壊疽を起こしたからだ。

 Kさんは2004年に糖尿病と診断されたが、自覚症状もなく、まともな治療は受けなかった。しかし、5年ほどすると目が見えにくくなってきたため、自宅近くの病院を受診。すぐに、網膜にできてしまった新生血管を焼いて出血を防ぐためにレーザー治療を受けた。失明は免れたが、高血糖状態が続けば悪化は避けられない。本格的なインスリン治療が始まった。

 しかし、Kさんは大の酒好きで、たばこもやめられない。就業時間が不規則なうえ、独身だったこともあり、食事は深夜にラーメンや牛丼をドカ食いする日々が続いた。仕事がら運転席に長時間座っていることが多く、体を動かす機会はほとんどない。仕事が立て込んで病院に行けず、治療を中断することもあった。 そんなKさんは、ある日、小指の付け根に黒いアザのようなものができていることに気づく。しかし、痛くも痒くもなかったのでそのまま放置していると、徐々に大きくなってきた。触るとブヨブヨとした感触があったため、糖尿病治療を受けている病院を受診した。 まずは下肢の血流を回復させるためのカテーテル治療を受けたが、思ったように改善しない。そのうち、患部がかさぶたのようになって表面が破け、腐敗した組織の下から骨が見えている状態まで悪化。それ以上、壊疽が広がらないようにするため、親指以外の4本を切断することになった。 現在、歩行リハビリを受けているKさんは、「もっと早くきちんと治療を始めて、もっと真剣に生活習慣の改善に取り組んでいれば……」と後悔している。

■治療を始める時期が重要

 糖尿病専門医で、「しんクリニック」院長の辛浩基氏は言う。

「合併症を発症してしまう患者さんは、『治療を始めるのが遅かった』という人が多い。糖尿病は初期の段階ではこれといった自覚症状が表れないため、治療をせずに様子を見る人が多く、何らかの合併症が発症した段階で診察を受けにくるケースが少なくありません。そこから治療を始めても、深刻な合併症に至ってしまうことが多いのです。糖尿病には『レガシーエフェクト』(遺産効果)があります。イギリスの大規模調査で明らかにされたもので、早い段階から治療を始めてしっかり血糖をコントロールすれば、将来的に合併症を起こさずに長生きできる確率がアップすることがわかっています」

 また、治療を始めても、多忙で面倒だからと中断したり、血糖がそこそこコントロールできた段階で安心して、治療をやめてしまう人も合併症を招きやすくなる。

 血糖値が安定していた患者が顔を見せなくなり、1年後に再び受診に来たときは眼底出血を起こして網膜症が進んでいた。

 糖尿病と診断されてから15年放置した結果、腎不全の一歩手前で病院に運ばれ、人工透析を1回5時間、週3回ペースで受けることになった患者もいる。

「たとえば夜勤があるなど仕事が不規則な人は、どうしても食事や睡眠が偏り、生活習慣の改善がままならないケースが多い。血糖コントロールがうまくいかず、合併症が進んでしまいやすい環境だといえます。しかし、多忙な中でも、食事はドカ食いを避け、必ず野菜を一品加えて最初に食べるようにしたり、禁煙したり、努力できることはいくつもあります」

 早期に治療をスタートして、自己判断で中断しない。少しでもいいから生活習慣の改善を継続できるかどうかが、分かれ道になる。

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