数字が語る医療の真実

ディオバン捏造もう一つの側面 かっけ論争から何も学ばず

ディオバン
ディオバン(提供写真)

 今から4年前、「ディオバン」という降圧薬の臨床試験でデータの捏造が明らかになりました。慈恵医大、京都府立医大、千葉大(関係者はのちに東大へ移動)、滋賀医大、名古屋大の5つの大学が関係し、その一部でディオバンでないグループで心疾患や脳卒中が多くなるように、データが作り替えられたことが明らかになっています。

 その最初の報告である慈恵医大の研究では、ディオバンを使えば心疾患や脳卒中が39%も少ないという、でたらめな報告をしたのです。

 この事件には、高木兼寛が創立した慈恵医大と森林太郎の東大のどちらもが関わっています。かっけの事件との違いは、慈恵医大も東大も事実の証拠を軽視し、論理の証拠を重視していたことです。これでは高木の霊は浮かばれないでしょう。

 このディオバンにかかわった研究者は主に試験管や動物実験を行う基礎研究者たちで「正しいのは論理であって、論理に合わせて事実などねじ曲げてしまえばよい」、そんなふうに考えていた節があるように思えてなりません。彼らがかっけの論争についてきちんと学んでいれば、この事件は起きなかったのではないかと思います。

 しかし、慈恵医大の学生に聞いたところによれば、慈恵医大ではかっけの歴史は入学最初に大きく取り上げられ、高木兼寛の業績がきちんと教育されているということでした。にもかかわらず、慈恵医大の教授が、そのかっけ論争から何も学んでいないような行動をとったというのが、ディオバン事件のもう一つの側面です。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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