処方量と単価が分かっているので、各降圧剤の年間売上高を簡単に計算することができます。全部足し合わせれば、降圧剤の市場規模も分かります。結果は<表>のようになりました。
NDBオープンデータには処方量の上位100品目までが掲載されています。それらの合計金額は、なんと5492億円。100位(ロプレソール錠20ミリグラム、サンファーマ)でも4100万円ほど売り上げています。101位以下がどのくらいになるかは分かりませんが、市場規模は大ざっぱに5500億円と言っていいでしょう。
医薬品は先発薬と後発薬(ジェネリック)に分けられます。先発薬とは、各社の特許に守られているクスリ、ジェネリックは特許切れの有効成分を使ったクスリ。当然、ジェネリックの薬価は低めに抑えられています。
増え続ける医療費を少しでも抑制しようと、政府はジェネリックの使用を躍起になって推奨しています。今年6月の閣議決定では、「2020年9月までに、後発医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早期に達成できるよう、さらなる使用促進を検討する」と定められました。
しかし降圧剤でこの目標を達成するのは、かなり厳しそうです。ジェネリックの中で最も多く使われている「シルニジピン錠10ミリグラム(沢井製薬)」ですら、1億錠に達しません(9700万錠)。全体(61億2000万錠)のわずか1・6%です。金額的にもジェネリックが占める割合は少なく、総額370億円。市場占有率は6・7%にとどまっています。
降圧剤はよほどオイシイ商売なのでしょう。国内大手3社(武田・アステラス・第一三共)とその関連会社が上位をガッチリと独占しています。またジェネリックに付け入るすきを与えないように、各社とも新薬の開発に余念がありません。従来品よりも降圧効果が高いクスリを投入できれば、安いジェネリックよりも優位に立てるからです。
臨床試験データの改ざんで大騒動を起こしたディオバンは、その後も使われ続けています。10位に80ミリグラム錠がランクイン、31位にも40ミリグラム錠が入っていて、合わせて197億円を売り上げています。とはいえ事件前の2009年度には1400億円といわれていましたから、往年の面影はありません。
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。