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がん治療を受ける病院はどう選べばいいのか

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 専業主婦のNさん(55歳)はおりものに血が混じることがあり、近所の婦人科を受診。下腹部のエコー検査で「子宮体がん」が疑われ、手術が必要とのことで大きな病院を2つ提示されました。

 両方ともがん診療拠点病院でしたが、A病院はがんだけの専門病院、B病院はがん以外に一般診療も行っている総合病院でした。Nさんの息子さんから相談を受けた私は、Nさんの持病に糖尿病があると聞いてB病院を勧めました。

 Nさんは近所の婦人科に診療情報提供書を書いてもらい、B病院の婦人科を訪ねました。子宮体がんの手術を行う予定になりましたが、手術前に悪化している糖尿病の治療が必要だと判断され、結局、B病院の内分泌内科に入院して血糖値をコントロールしてから手術することになりました。

 がん治療の病院を選ぶには、まずは診療情報提供書を書いてくれた紹介医が勧める病院が良いと思います。紹介医とがん病院の医師とが知り合いであれば好都合です。しかし、どの病院が良いかについて、紹介医は判断がつかないこともあります。

 患者はがんと診断されると“命に関わる”との思いから、「安心して最高の医療が受けられる病院を探す」ということになると思います。また、がん以外の持病(糖尿病、慢性呼吸器疾患、心臓病など)を抱えている方は、その治療ができるか否かについても頭に浮かぶでしょう。さらに、病院の評判についても気にするかもしれません。

■通院しやすいかも大きなポイント

 病院を選ぶ際には、「がんの診断や治療は1回だけの受診では済まない」ということも考えるポイントになります。自宅から通院可能か? 仕事の都合をつけやすいかといった観点を持つことも大切です。

 患者の体調が良く緊急を要さない場合、多くは外来で検査・治療が行われます。手術前の術前検査も同様に多くは外来です。もちろん、病状によって必要な検査・治療は入院で行われます。ただ、最近は入院期間が短くなっていることもあり、検査以外にも、設備が充実した外来通院治療センターなどで化学療法や放射線治療も外来で行われる場合が増えています。つまり、最近のがん治療は外来にシフトしているのです。ですから、通院の利便性も病院選びに大きく関係します。

 また、病院を選ぶ際は、インターネットなどで「症例数が多い」「手術実績が豊富」といった情報をチェックするのもポイントのひとつです。さらに、医師だけでなく、多くの職種が協力してひとりの患者を支えるシステム(キャンサーボードなどのチーム医療)ができている病院であるかも重要です。

 がん拠点病院は、症例数、手術実績、チーム医療の体制などが考慮され、指定されます。東京都では、国が定めた「地域がん診療連携拠点病院」のほかに、都が指定した「東京都がん診療連携拠点病院」「東京都認定がん診療病院」「がん診療連携協力病院」などが、レベルの高い診療ができる病院として認められています。もちろん、拠点病院に指定されていなくても、たとえ小さい規模の病院でも、がんの種類によってはしっかりした治療ができる施設も数多くあります。

 病院に「がんの専門医がいるかどうか」を心配される患者さんも増えています。ただ、「専門医」とは、神の手を持っているといわれる心臓外科医や、内視鏡治療ではぴかいちの腕を持つ医師、あるいは膵臓がん手術の達人といったような“スーパードクター”を指しているわけではありません。今後、統一した専門医制度が本格的に始まりますが、専門医の資格認定は「研修病院での研修」を終え、「規定の患者数を経験」し、「標準治療ができる」ことが条件の一部となっていて、卒後6~7年目ごろから受験資格が得られることになっています。納得いく治療を受けるためにも知っておくべき知識でしょう。

 これらのポイントを参考にして、適切ながん病院を選択していただければと思います。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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