なかなか治らない胃食道逆流症は「タイプ見極め」が重要

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 なかなか良くならない胃食道逆流症に打つ手はないのか? 国立国際医療研究センター消化器内科診療科長の秋山純一医師に聞いた。

 胃食道逆流症の薬物治療は一般的に、まずPPI(プロトンポンプ阻害薬)の1日1回8週間投与を行う。これで7割は改善するが、3割は症状が残る(PPI抵抗性)。すると「PPIの倍量」「1日2回投与」「別のPPIへの変更」が検討される。

「同じ作用機序のPPI4種類のうち、倍量投与が承認されているのは1種類。しかし、これでは効果が不十分な患者がいます。そこで用いられるのが、違う作用機序のPPI『ボノプラザン(一般名)』です」

 ボノプラザンは2015年に20年ぶりに承認された新薬。従来薬は「酸に不安定」「効果が出るまで3~5日かかる」「夜間の酸分泌を抑制できない」「人によって効き目に違いがある」といった課題があったが、すべて克服した。

「投与初日からほぼ最大効果を示し、24時間にわたって安定した薬効を示す画期的な薬です」

 ところが、ボノプラザンでも改善しない患者がいる。ここで重要になるのが、「どのタイプの胃食道逆流症なのか」ということだ。

 PPIが効かないPPI抵抗性胃食道逆流症は、「胃酸あるいは胃酸以外の体液や空気が逆流するタイプ(持続性胃食道逆流)」と「これらの逆流がないタイプ」に分かれる。

「『逆流なし』であれば、PPI倍量やボノプラザンで胃酸分泌抑制を強化する治療を行っても効かない。別の治療を検討しなければなりません」

「逆流なし」は原因として精神的因子が考えられており、抗うつ薬などの治療になる。

 問題は、タイプをどう見極めるかだ。これには、「食道インピーダンスpHモニタリング」という検査が必要になる。ただ、この検査は鼻から胃までカテーテルを留置して食道の逆流を24時間チェックするもので、だれにでも行えるものではない。そこで秋山医師は、「PPI内服中における持続性胃食道逆流」と「逆流なし」にどんな違いがあるかを調べた。

「持続性胃食道逆流の定義を『酸の逆流が24時間中4%以上』または『逆流回数が48回以上』としました。そして、持続性胃食道逆流のグループと『逆流なし』のグループを比較したのです」

■チェックすべきは4項目

 結果、持続性胃食道逆流グループに高頻度で見られる4つの項目が挙がった。

 それは「男性」「3センチ以上の食道裂孔ヘルニア」「PPI投与でも治癒しないびらん性食道炎」「1センチ以上のバレット食道」だ。

「4つに該当したからといって100%持続性胃食道逆流とはいえませんが、食道インピーダンスpHモニタリングが簡単にできる検査ではない点を考えると、治療法を考える上での一つの目安になるかもしれません」

 4つのいずれにも該当せず、PPIで良くならなければ、抗うつ薬による治療を考えたほうがいいケースもあるのだ。

 今回の研究では、持続性胃食道逆流症をさらに「酸性逆流」「非酸性逆流(胃酸以外の体液や空気などの逆流)」に分け、酸性逆流に対するボノプラザンの効果も見た。従来のPPI内服時と、ボノプラザン変更後を比較したのだ。

 すると、ボノプラザン変更後の方が胃酸はより強力に抑制されており、食道内への酸性逆流も大幅に減少。「時間比4%以下」を正常とした場合、半数近くの人が正常になり、胸焼けなどの逆流症状も著明に軽快した。従来のPPIの時は6割に胃酸逆流による食道炎が見られたが、ボノプラザン変更後は9割以上が治った。

 治らない胃食道逆流症で苦しんでいる人に、光が見えてきた。

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