皮膚を科学する

M・アントワネットの「一夜にして白髪に」は実際あるの?

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増えた?(C)日刊ゲンダイ

 フランス国王ルイ16世の王妃、マリー・アントワネットには「処刑される恐怖で、一晩のうちに髪が真っ白になった」という有名なエピソードがある。ボクシング漫画「あしたのジョー」でも、主人公・矢吹丈との壮絶な打ち合いで相手選手のホセ・メンドーサが試合終了後、白髪になる場面がある。

 本当に、一夜にして白髪になることはあるのか。「新東京クリニック/美容医療・レーザー治療センター」(千葉県)の瀧川恵美センター長が言う。

「ブリーチ(脱色)やヘアカラーをしない限り、一夜にして頭髪のすべてが白髪になることはありえません。起きたとしても髪の根元の部分が、1日に伸びる0.3~0.4ミリが白くなるくらい。そのような話は、恐怖心や強烈なストレスを分かりやすく表現するための誇張でしょう」

 そもそも髪の毛は紫外線から頭部を守るために存在するが、体内の不要な物質が排出される排泄(はいせつ)器官でもあるという。髪の毛は切っても痛くない。それは神経も血管もなく、細胞の核もなく、生きていないからだ。

 生きているのは頭の皮膚に潜っている部分。頭皮から外に出ている毛は、皮膚の表皮にできるアカのようなもの。そのため覚醒剤やヒ素などの摂取を調べるのに、体で最も長く残る髪の毛(排泄物)が使われるという。

■成長期が長いほどなりやすい

 では、なぜ人は年を取ると白髪が増えるのか。

「毛は毛根の先端にある毛乳頭の毛母細胞で作られますが、元は白い色なのです。それが毛の成長過程(外に押し出される過程)で色がつくのは、毛母細胞のところに共存する色素細胞(メラノサイト)の働きでメラニン色素が産生され、色素が送り込まれるからです。年を取ると色素細胞が減ったり、メラニン色素を作る機能が低下したりして白髪が増えるのです」

 加齢だけでなく、ストレスや精神的ショック、メラニンを合成する栄養不足、薬剤(シミ取りの薬など)、遺伝的素因なども白髪の原因(機能低下)になるという。若白髪や苦労をすると白髪が増えるのもそのためだ。

 では、体毛の白髪があまり見られないのは、どういうことなのか。

「毛のヘアサイクルは体の部位で違います。髪の成長期は4~6年、眉毛は3~4カ月、体毛は3~5カ月、まつげは1~2カ月。成長期(細胞周期で増殖期)が長いほど毛包の細胞が紫外線の影響を受けやすく、白髪が起こりやすいという報告があります」

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