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10年で腰痛治療5万人 「痛みナビ体操」で改善率85~90%

お茶の水整形外科・機能リハビリテーションクリニックの銅冶英雄院長
お茶の水整形外科・機能リハビリテーションクリニックの銅冶英雄院長(提供写真)
お茶の水整形外科・機能リハビリテーションクリニック 銅冶英雄院長(東京都千代田区)

 日本人の8割が一生のうちで一度は腰痛を患うとされる。原因が特定できない腰痛(非特異的腰痛)で、痛み止めの薬などを使って長年しのいでいる人も少なくない。同院では、「痛みナビ体操」という独自の運動療法(保険診療)を用いて腰痛を治している。銅冶英雄院長が言う。

「痛みが強いときは痛み止めも使いますが、使っても最小限。薬は一時的に痛みを抑えるだけの効果しかないからです。当院の患者さんの薬を使う割合は、初診は4割くらいですが、半年後には1割くらいに減ります」

 外科治療も否定はしない。脚や膀胱にマヒがあるような場合には手術を勧める。しかし、ある研究では脊柱管狭窄症で手術をしても78・2%は脚にシビレが残り満足度は低いと報告されている。神経の圧迫が長く続いたときは、手術をしても神経症状が残ってしまうことがあるのだ。同院の運動療法は、術後の腰痛やシビレなどの症状にも有効という。

■薬は極力使わず、急性期で2カ月、慢性期で半年

 では、診療はどのように進められるのか。リハビリ時にどのような体操で痛みが改善するかを、痛みをナビゲーションして腰痛をタイプ分けするという。

「腰痛は、体を後ろに反らすと楽になる『後屈改善型』、前に曲げると楽になる『前屈改善型』、腰を左右に動かすと楽になる『側方改善型』の3つに大別できます。その患者さんのタイプや症状の程度などに合わせて、理学療法士が体操を指導します。それを持ち帰ってもらい、自宅や職場で毎日実践してもらいます」

 たとえば最も多い後屈改善型では、①壁に両手をついて立つ②腰を前に突き出しはじめる③さらに腰を反らす。この体操を10回1セット、1日に5~6セット行う。

 通院は月に1~2回、痛みの状況を確認し、体操の調整をする。体操をマスターして、患者本人が腰痛をコントロールできるようになれば卒業(通院終了)だ。

「痛みナビ体操による腰痛の改善率は85~90%です。治療開始から卒業までの期間は症状の程度にもよりますが、平均して急性腰痛の場合には2カ月くらい、1年以上続いている慢性腰痛では半年くらいです」

 銅冶院長は、大学院在籍中に腰痛の分子生物学的基礎研究を行っていたが、薬剤の効果に限界を感じた。そこでリハビリテーション専門医になり、さまざまな運動療法を自ら試し、5年かけて開発したのが「痛みナビ体操」。あらゆる関節痛に対して、ここ10年間でこの運動療法を処方した患者数は約5万人に上るという。

「肩や腰、膝など関節は『運動器』なので、動かし方を治療につなげる運動療法が最も合理的なのです。腰痛の診断病名はあまり関係ありません。要は痛みが取れればいいのです。もちろん、座っているときや歩いているときの姿勢の改善も大切になります」

 腰痛をあきらめている人、手術が必要と言われている人、ダメもとで相談してみてはどうか。

▽新潟県出身。1994年日本医科大学卒。千葉大学付属病院、成田赤十字病院、国立がんセンター中央病院などに勤務。豪州ベッドブルック脊椎ユニット留学、千葉大学大学院医学研究院などを経て、2010年開院。
〈所属学会〉日本リハビリテーション医学会、日本整形外科学会など。

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