3割が残薬あり 糖尿病治療薬「飲み忘れ」が寿命を縮める

自分のライフスタイルに薬が合わなければ替えることも可能
自分のライフスタイルに薬が合わなければ替えることも可能(C)日刊ゲンダイ

 薬の飲み忘れを「ついうっかり」と捉え、軽く考えている人も多いだろう。ところが糖尿病では、大きな「害」となる。

 話を聞いたのは、横浜市立大学分子内分泌・糖尿病内科学教室の寺内康夫教授。糖尿病の薬を飲んでいる2型糖尿病患者約2900人を対象に「残薬」について調査したところ、「あり」と答えた人は全体の3割だった。

 その原因は、「特に理由はないが、ついうっかり」が圧倒的に多く、続いて「外出時に持っていくのを忘れた」「食事のタイミングが不規則で飲むタイミングを逸す」という回答が挙がった。

 これらの患者には2タイプあることもわかった。「自分は軽症で、服薬管理は難しくないと考えている楽観的志向」と、「生活が多忙で、服薬管理は難しいと感じている治療あきらめ志向」だ。

「思っている以上に、自分は大丈夫と過信している人に残薬が多いことに驚きました」

 寺内教授は「残薬」の弊害は大きいと指摘する。なぜなら、「血糖コントロールの不良」「入院や救急処置室の受診の増加」「生活の質の低下」「死亡率の上昇」「医療費の向上」につながるからだ。

■「自分は軽症で大丈夫」は大間違い

 患者が積極的に治療方針の決定に参加し、治療を受けることを「アドヒアランス」と呼ぶ。「薬をきちんと飲む」はまさにこれ。「残薬あり」は、「アドヒアランス不良」を意味する。

 海外のデータになるが、アドヒアランスを5段階に分けると、アドヒアランスが低いほど死亡リスクが高い。アドヒアランスが最も不良の群は、最も良好の群に対し12倍以上の死亡リスクだった。

「糖尿病の薬物治療をしているのに血糖コントロールの目標値に達しないなら、次の治療を開始すべき。この『治療強化』のタイミングは、アドヒアランス良好の群ほど早いという報告があります」

 治療強化のタイミングの遅れは、血糖コントロールの改善に影響を与える。「1年以内に治療強化をした群」「1~5年に治療強化の群」「治療強化なし」を比較した研究では、1年以内の治療強化群は早くに血糖コントロールが目標値に達し、長期的に維持。1~5年の群も、1年以内よりは遅れるものの、血糖コントロールの改善を維持できた。

「ところが、治療強化なしの群では、調査スタート時では治療強化群よりも平均ヘモグロビンA1cが低いにもかかわらず、長期的に見ると徐々に上昇していきました」

 血糖コントロールの改善の指標になるのは、ヘモグロビンA1cだ。これが1%低下することのメリットは非常に大きい。

「糖尿病関連死は21%低下、下肢切断または末梢血管疾患の死亡は43%低下するといわれています。糖尿病関連死とは、心筋梗塞や脳卒中、腎疾患、高血糖、低血糖といった糖尿病に関連した疾患による死亡のことです」

 従来の治療と、治療強化では、ヘモグロビンA1cのコントロールはほぼ等しいレベルでも、長期的に見ると大血管障害・死亡リスクが従来治療の方が高くなることも明らかになっている。

「アドヒアランスが良ければ治療強化を早期に介入でき、血糖コントロールを良くし、死亡をはじめとするさまざまなリスクが下がるのです」

 薬の飲み忘れは医師に隠してしまいがち。しかし今は、複数剤が1剤になった合剤もあるし、服薬回数が少なくて済む薬もある。自分のライフスタイルに薬が合わなければ替えることも可能。医師や、言いにくければ看護師、薬剤師らにまずは相談を。取り合ってもらえないようなら、医療機関を替える手もある。

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