Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

全摘なら8時間手術 食道がんで化学放射線療法を選ぶ理由

左から中村勘三郎、小澤征爾、桑田佳祐(C)共同通信社

 この点、放射線治療と抗がん剤を同時に行う「化学放射線療法」では、食道や胃を温存できるため、体重は維持されることがほとんど。治癒率も手術に匹敵する数字が出ています。

 東大病院で、食道がんの全摘手術を受けたグループと、化学放射線療法を受けたグループの「生活の質(QOL)」を調べたところ、食べ物ののみ込みやすさ、痛みや息苦しさなどの点で、化学放射線療法の方が勝っていました。体調も、3カ月から半年で元気なころと同じくらいに戻っています。

 こうしたことから、手術以外にも化学放射線療法があることは、ぜひ頭に入れておくのがいいでしょう。たまたま桑田さんが手術を受ける直前のラジオ放送を聞きましたが、手術以外にも化学放射線療法という方法があることはご存じなかったようですから。

 進行した食道がんは、詰まったり、のみ込みにくかったりする症状がありますが、早期は症状がまずありません。検診やほかの病気の検査で見つかることがほとんど。島根の知事は人間ドックで見つかったそうですが、食道がんを早期に見つけるには1年に1回の内視鏡検査が大切です。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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